第97話 もう1人の俺とハッピー・エンド
side 人間界の俺達
今日は紗里子の誕生日だ。
早いものでもう14歳になった。
大人になっていく紗里子を見つめるのは寂しくもあり喜ばしくもあるが、絵のモデルは相変わらず続けてくれている。
「だって、パパの絵のモデルになるのは私にとっての誇りだもん!! 高校生になっても大学生になっても、それ以上になってもやらせてくれる? よね??」
なんて嬉しい事を言ってくれる。
しかしこんな事も言う。
「私は将来パパの『奥さん』になるつもりだけど、その時になったら年取ってモデルは出来なくなっちゃうのかなあ……」
「紗里子、お前は戸籍上俺の養女だ。奥さんとかにはなれないよ」
俺がそうたしなめると、紗里子は
「そんなの、養女じゃなくしちゃえばいいじゃん! 血が繋がってないんだから書き換え出来るでしょ?」
紗里子の前よりも大きくなった胸がぷるんと揺れる。
「紗里子、動くな」
「はあい……」
紗里子がポーズを崩した事について反省していると、ここで百が仕事場のドアをノックした。向こう側から遠慮がちな声がする。
「あのう……。お父様、紗里子。夕食の準備が出来ました……」
百は未だにおっさんに戻った俺に慣れていない。それでも、「いつまでもこの家に居ていいから」という俺の言葉にすがるようにして居候を続けている。
「パパ、今日は百とサマンサが私の為にご馳走を作ってくれてるんだって! とっても楽しみだね!」
「ああ。なんたってサマンサがついていてくれてるんだから、期待してもいいかもな」
紗里子が下着を付け始める。
と。ブラジャーがきつくなって胸がはみ出ているのが分かった。俺は今更ながら思わず『娘の胸』から視線を逸らす。
「紗里子、小遣いはやってるだろう。ちゃんとサイズに合った下着を買いなさい」
「はあい。パパのえっち!!」
素直に返事をしたかと思ったらコレだ。
今まで全裸を晒していたのにえっちも何も無いもんだ。
しかし紗里子は、何事かを考えている風にこぼした。
「ところでね、パパ。最近リリィ・ロッドが『呼び出し』をしないの。世界が平和になって困ってる人がいなくなったのかなあ。だったら良いんだけど」
紗里子は未だに自分が『神』になった事を自覚出来ていない。
居間に行くと、テーブルの中央に花が飾ってあり、その周りを美味そうな料理群が取り囲んでいた。
ローストビーフにホタテのムニエル、どこで調達したのかエスカルゴ、野菜を敷き詰めたカルパッチョ、その他諸々。
「これ、殆どサマンサが作ってくれたんです」
百が恥ずかしそうに告白する。
「それくらい、ドレイとしては当たり前ですわ。ご主人様のお誕生日にご馳走を作るくらい」
とサマンサが胸を張る。やっぱり『ドレイ』の意味を未だに理解していないらしい。
俺は赤ワイン、子ども達はジュースで乾杯。料理はどれも美味かった。
「じゃあ、百。そろそろケーキをお出しなさいな」
サマンサがそう言うと、百は急に赤くなってキッチンへと走り出した。
百が運んできたのは、苺がたっぷり乗せられたホールケーキ。
百はまた恥ずかしそうに言う。
「あの、これだけはサマンサの手を借りずに私1人で作ったの。紗里子が喜んでくれるといいけど」
「百……」
紗里子は少なからず感動しているようだった。
そのホールケーキは少し形がいびつだったが素人の女の子が作ったにしては見た目は上出来である。問題は味だ。
百は大きめのロウソク1本をケーキの中央に刺し、小さめのロウソク4本をその周りに刺してチャッカマン(商品名)で火を付けた。
部屋を電気を消して暗くする。
「ハッピーバースデートゥーユー♪、ハッピーバースデーディア紗里子……」
俺と百が合唱したが、サマンサは魔女だからお馴染みのこの歌を知らず、キョトンとしている。「なんですの、皆急に歌い出して。何かの呪文ですの?」等と言っている。
「ハッピーバースデートゥーユー♪」
歌が終わって少し間を空けた紗里子は、何かを祈るかのようにして目を瞑り、一気にロウソクの火を吹き消した。
「おめでとう、紗里子!!」
拍手と同時に、紗里子が「皆、ありがとう……」と目を潤ませていた。
ケーキをカットして口に運ぶと……。うーん。これこそがスポンジケーキ。本物のスポンジを食った事は無いが歯ざわり舌ざわりがスポンジであった。
皆しばし無言でフォークを口に運んでいたが、紗里子は
「百、とっても美味しい。ありがとう」
と、優等生らしい感謝のセリフを呟いた。百は、
「良かった……。お父様は、いかがですか?」
急に話を俺に振ってきた。俺がこのケーキを食べてどんな思いでいたかが気になったのだろう。
「う、うん。美味しいよ。百ちゃんもサマンサも料理の才能があるね」
と返事をすると、百は急に赤くなった。ん?
それを見た紗里子は穏やかにむくれて、俺の太ももを柔らかくつねった。
「いてっ!」
「ど、どうされたんですかお父様」
百が心配そうに尋ねる。俺は、「いや、持病のリウマチが」と誤魔化す。
「ところで、紗里子はロウソクを吹き消す時どんな願いを込めたの?」
と俺が聞くと、紗里子は恥ずかしそうに
「『世界が平和でありますように』と願ったの」
『世界が平和』か。
それについては大丈夫。
もう一体の、『神』になった俺達が護ってくれているはずだから。
紗里子には魔女の血が流れている。それは紛れも無い事実だ。
だがもう紗里子が魔法少女となって気苦労を重ねる心配も殆ど無いだろう。
後はもう、一生懸命働いたり勉強したりして残された寿命を全うするだけであろう。
その寿命がどれくらいかは、ただの人間である俺には想像もつかない。
急に、俺は紗里子の事が愛おしくて仕方なくなった。
「パ、パパ!? どうしたの!?」
誕生日会が終わって2人きりになってから、俺は紗里子を思い切り抱きしめた。
紗里子は俺のされるがままだったが、神となった紗里子がその光景を目にして大層喜んでいるのが人間の俺にも伝わってきた。
いつまでもこんな生活が続きますように。
俺は『神(俺)』に向かって祈った。
お父さん大好きのJCの娘が魔法少女なんだが俺もTSして魔法少女になった~おっさんの俺が最強魔法少女を目指します~ いのうえ @773
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