第3話 見習い騎士と訓練稽古

「——これから共に生活することになりますので、よろしくお願いいたしますね♪」


 団長の言葉の理由——それはクロムへの同情であった。


 ————チュンチュンチュン……————


(……一睡もできなかった……)

 昨日は色々あったが、一番衝撃だったのは今後ティファルと同室で生活しなければならなくなったということ。

(姫様と僕を一緒にするなんて、王宮の人達もどうかしてるよ……!)

 もちろん、間違いを起こすつもりは毛頭ないが、万が一ということは考えられないのだろうか?

(そこについては結局、姫様もはっきり理由を教えてくれなかったし)


 ——…昨日…——


「——えっと、取り敢えず。姫様と僕が一緒に生活するのはわかりました……」(いや、ぶっちゃけ全っ然分かってないですけど)

「ふふっ。私、自分の物を誰かに預けるのって嫌なんです」

「は、はあ……。でも、僕が姫様の方へ行くのなら納得なんですけど。なんで僕の方に姫様が来るんですか!?」

「……ああ、荷物を置かないといけませんね」

「えぇ……」



(これ以上喋ってくれないだろうな、と思って寝ることにしたけど……。どうしてこうなった……⁉︎)

「スゥ……スゥ……」

 そうを横目に、クロムはため息を一つ吐く。

(王国騎士になるために王都へ来たのに、まさか《お姫様の見習い騎士》になるとはなぁ)

 クロムがう〜んと呻きつつ考えていると、「ん……?」と小さく声を上げ、ティファルがゆっくりと瞼を開けた。

「あ……、姫様お早うございます」

 クロムが挨拶すると、ティファルは寝ぼけ眼でまたも小さな声で「おふぁよう御じゃいます……」と欠伸混じりに返し、ふらふらとした足取りで部屋から出て行った。

(井戸に顔を洗いに行ったのかな?)

 外からバシャバシャという音がするので、そうだろう。

 ……それにしても、添い寝は恥ずかしく感じないのだろうか? と、クロムは疑問を浮かべつつ、ティファルが帰ってくるのを待った。


 …——ティファルは戻ってくるなり、頬を紅潮させて、

「たわけぇええええぇぇえぇぇぇッッ‼︎」

 と、叫んでクロムの頬を平手打ちした。

「えぇ……。僕が悪いんですか……」


 まだ熱を帯びている頬をさすりつつ、交代で行った井戸からクロムが帰ってくるとティファルは、昨日から着ていたクシャクシャになったドレスを丁寧に畳んでいた。

 そして、代わりに、元より一層可愛らしく見える——見習い騎士生の制服へ着替えていた。

「あれ? 姫様。なんで騎士の正装を着ているんですか?」

 と、クロムが訊ねると、ティファルは、

「昨日はうっかりドレスのまま寝てしまったので、このまま着回すのは王女としてどうかと思いまして。寮母様に用意してもらったのです。……ですが……その」

 ティファルのモジモジとした反応を見たクロムは、瞬間的に察し——なるほど。

「先程は申し「——服がキツイんですね?」訳…………」

 とティファルの言葉に被せるように無神経に言い放った。

「…………」

 ……室内の空気が一気に熱を帯び、ティファルが腰に帯剣しているクラウ・ソラスが、鞘ごと赤熱化しながらカタカタと震えている。どうやら彼女の感情に呼応して、

剣力付与エンチャントウィース】が発動しかけているらしい。(今抜剣した場合、この部屋はもちろん、アリア寮が大爆発で吹き飛ぶだろう。

 ……だが、クロムは気づいていないのか、無言のティファルに「?」と疑問符を浮かべて小首を傾げている。

「…………はぁ……」

 そんなクロムに呆れて怒りが失せたのか、ため息を一つ吐いて、ティファルは脱力した。もちろん、クラウ・ソラスもゆっくりと元の状態へと戻っていった。

『別に太っているわけではありませんッ‼︎』

 そう叫ぶように言って、ティファルは、動きやすいようやや短めになっているスカートの、左側についているファスナーの引き手を両手で思いっきり引き上げて、「ふんっ」と鼻を鳴らし、剣帯のポジションを調節した。

「太ってるとは言ってませんけど……」

 クロムは、右手人差し指で頬の少し上の辺りを軽く掻きながら苦笑した。

 すると突然。


 ——ぐうぅ……——


 クロムの腹が鳴った。

「たはは……すみません……。僕、一昨日の夜から何も食べてないんですよ……」

 ——クロムは一昨日の夜、商人から貰った干し肉が最後に食べたものである。途中、水を飲んだり、新入試験の時ウルスから酒を飲ませてもらったが……——試験、模擬戦と、連続で試合を行ない、補給した分のエネルギーも消耗してしまったのだろう。昨日夕食を食べ損ねたのも痛手であった。

(我ながらよくもったなぁ……)

 そんなクロムにティファルは呆れ顔を変えて微笑むと、

「そうですね。私もお腹が空いちゃいました。朝食、食べに行きましょう!」

 と言って、ティファルはクロムの右手を掴み、食堂へ連れていった。




「おお〜……!」

 クロムは一昨日ぶりの食事であるパンを見ると、慌てるように噛りついた。

「あっ、クロム様。意地汚いですよ!」

「うぇ、あ、すみません……」

 隣に座っているティファルに叱られ、シュン……。としながら、クロムは皿にかじりかけのパンを置いた。

「あと、ちゃんとクラウ・ソラスに祈りを捧げてからでないと」

 言ってティファルは合掌し、静かに目を閉じ。

「力の星剣よ、我らを守り給え」

「ち、力の星剣よ、我らを守り給えぇっ」

「…………さて、食べましょ——「はぐッ!」うか……」

 ティファルが言葉を言い終える前に、クロムは食べかけだったパンを一気に頬張り、一緒に提供されたスープで胃に流し込んだ。


「はふ~。美味しかったぁ~~!」

 一息吐くと、満足気な表情を浮かべ、クロムは卓上に突っ伏す。

「…………」

 そんなクロムを横目で見つつ、彼とは全く違い、ティファルは優雅に食事を済ます。

 すると、ティファルが食べ終えたのとほぼ同時に、4人——男女各二人ずつの見習い騎士が食堂に入ってきた。

 彼らは二人からやや離れた席に座ると、こちらにも聞こえるほどの声で話をし始めた。

『昨日の試験は楽勝だったなっ』

『ああ。我も神業で叩きのめしてやったぞっ! 先輩たちなんか口ほどにもなかったな』

「ははは。それにしても、あのクロム・フェイカって子凄かったよねぇ」

「……」(コクン)

 その話声を聞き、ティファルは妖しくほほ笑む。

「……さて、あの方たちは……」

「……?」

 隣から妖しげな気配を感じ、クロムは突っ伏したままティファルへ目をやる。

「…………」

「……?」

 含みのある言葉を呟いたティファルに、クロムは疑問符を浮かべ、

「——姫様それどういう————」

「————あー! 噂をすればフェイカ君‼︎」

 ティファルへの尋ねは、先程の4人の内の一人に言葉で殺され、

「え」

「試験観てたよ! 私君の次だったんだぁ! もう——感激だよ〜!」

「そ、そうなんだ……。えっと、ありが……とう?」

 ——言いながら詰め寄ってきた女子にクロムは焦り、両手をパタパタと横に振る独特な反応をした。それが面白かったのか、彼女は吹き出し、横のティファルは右手で口を塞ぎ、震えている。

「ぷふふふっ、ゴメンゴメン」

「うぅ……なんなんだよ一体……」

 クロムが半眼で呻いていると、残りの3人もこちらへ寄ってくる。

「よお、首席。俺はディル・フロウ同じ見習い騎士だ。よろしくな!」

 ディルは、爽やかな笑顔で紹介をしてきた。兄貴肌そうな格好のいいイメージで、茶髪がよく似合う。

(この人は好感がもてそうだな)

「——訊かれてもいないのに紹介をしたこいつは置いといて、フェイカ。我の名を聞きたいだろう?」

 心中で(なんだこいつ……)と呟きつつ、クロムは「あ、うん(棒)」と答える。

「我名は——!「あーはいはいはい、ユーリス・ライデルねー。あ、ちなみにアタシはパルス・ウェインよ! ヨロシクねッ!」

 ユーリスの紹介を遮って引き継ぎ、元気なオーラで溢れたパルスが紹介をする。

「んで、あそこで座ってるのが、ヴァニラ・カルム」

 パルスが親指で先程自分たちも座っていた席を指して、そこに座っていた無口そうなヴァニラの紹介をした。

「じゃあ、一応僕も……。もう知ってるとは思うんだけど、クロム・フェイカです。これからよろしく」


 ……ティファルは、照れくさそうにしながらも、友人ができて嬉しそうな顔をするクロムをなんとなく、愛おしく思った。

 しかし同時に、心にもやもやとしたものを感じて、思わず心臓の辺りに手を押し当てる。だが治らない。

 クロムを考えると暖かい物を感じられるのだが、彼が自分以外の誰かと楽しそうに話しているのを見ると、何故か段々とそれがドス黒いものへと変わってしまう。

(一体私はどうしてしまったのでしょう……)

 このままでは最初にあった時のように、クロムに危害を加えてしまいそうに感じたティファルは、

「クロム様、急用を思い出しましたので、一旦王宮に戻りますね」

 と言って、食堂から出て行った。

「わっ、王女殿下だったんだ。制服着てたから先輩騎士かと思ってたよ……。どうしたんだろ?」

「急用ってなんなんだろうな?」

「う、うむ。やや苦しそうに見えたが……」

 パルス、ディル、ユーリスは心配しているようで、クロムの方をチラッと一斉に見る。が、彼は心配していなかった。


 何故なら——


「わぁあっ! 何それ!?」

「……保存箱……わたしが作ったの……」

 ヴァニラの持っていた氷を利用した携帯食料保存箱に夢中になっていたからである。

「これ、氷菓子。一つあげる」

 話しかけられて嬉しそうにヴァニラは蒼い髪と体を揺らしている。

「ありがとうっ! 氷菓子かぁ。初めて食べたっ!」

「……えぇ……」

「フェイカって確か王女殿下の近衛騎士になるんじゃなかったけか……?」

「ああ、そのはずだ……」

 クロムの興味度に、3人は唖然とするのであった。




 ……4人が食事を終えるまで待ってから、クロムは4人とともに訓練場へ向かった。

『さあ初訓練だ! 気を引き締めてけ〜‼︎』

「「「はいッ‼︎」」」

 相変わらずでかい声の団長の掛け声に、見習い生は全員声を合わせて返事をする。

(姫様どこ行っちゃったんだろ……)

 今更ティファルの心配をしてきょろきょろと見回すクロム。それを見てまた3人は苦笑する。

 ——訓練場はそれなりに大きく、四角形の舞台がいくつも並んでいる。

 ここで模擬戦や打ち合いでの稽古を木剣を用いて行い、鍛え合うらしい。

『今回は打ち合い稽古だ。こちらで事前に相手は決めておいた!』

 団長はそれぞれの相手が書かれた羊皮紙を壁に貼ると、同時に見習い騎士生達は一斉に羊皮紙に群がった。

「えーと、僕の相手は……」

(知ってる人だったらいいなぁ)

 ——そう思っていたクロムを裏切るように、クロムの名前と対になっていたのは、知らない名前の人物だった。

「フラン・ベルデル……さん?」

「はい?」

 名前を口に出して読むと、真後ろから返事が返ってきた。

「っ!?」

「キャッ!」

 驚いて後ろを振り向いたクロムに、返事をした人物も驚いたようで悲鳴を上げてしりもちをつく。

「ゴ、ゴメンなさい!」

 謝りつつ手を差し伸べると、相手はすぐにクロムの手を借りて立ち上がった。

「い、いえ、こちらこそゴメンなさい」

「えっと、ベルデルさんですか……?」

「はい。フラン・ベルデルです!」

 フランは、グーにした手を立てて軽くジャンプするという独特の仕草で答えた。その仕草は背に低い身体に相まって、まるで小動物のようで可愛らしい。

「あ、僕、クロム・フェイカです。今回はよろしくお願いします」

「は、はい、よろしくです!」

 お互いにペコペコ頭を下げあって挨拶をしていると、周囲から声が聞こえてくる。それはひそひそ話ではあったのだが、クロムの聴覚は優れているため、他人の話を盗み聞くのは嫌いなのだが、嫌でも聞こえてしまった。

「……首席と次席で組むなんて、なんか馬鹿にされてるみたいだよな……」

「……わかる〜、なんだろ、私達じゃまともに稽古できないって遠回しに言われてるよね……」

 なるほど、確かにクロムの相手は、普通の見習い騎士生では無理だろう。

「へぇ、ベルデルさんて次席だったんですね……! 凄いです!」

「…………凄い?」

 フランの声が先程のものより重いものへ変わった。


 ————ヒュンッ————!


「え——」

 風切り音と共に、クロムの眼前に木剣の切っ先が現れる。それを向けているのは言わずもがな、フラン・ベルデルであった。

「——“主席”の貴方に言われると、侮辱を受けている気にしかならないですね」

 言って彼女は少々乱れた輝く長い金色の髪を一束にすると、後ろで結い上げて髪型をポニーテールへ変える。どうやらそれが、フランの勝負時のスタンスのようだ。

 なんだなんだと周囲がうるさく騒めくが、フランはそれも気に求めていないようで、ただひたすらに、自身を侮辱した男を——クロムをそのアクアマリンのような瞳で、鋭く見据えたまま木剣を下げようとしない。そこからは集中力の高さも見てとれる。

「あっ、ゴメンなさい。別に侮辱をしたわけじゃなくて……。ただ、僕は“マグレ”で主席になったから、純粋に凄いなぁって……」

「は?」

 そう、ただ純粋に、フランが凄いと感じたから口にしただけ。それに嘘は無く、心からのものなのだが、

「マグ……レ……? ふざけないでください。マグレで主席になれると思ってるんですかッ⁉︎ 私は貴方とティファル姫の試合を観たんですからね! 隠し通せるものではないのですよ!」

(あー。またなんか不味いこと言っちゃったっぽいな……)

 フランはさらに怒り、向けた木剣をプルプルと震えさせている。

「ちょ、危ないですって!」

「ハァッ——ッ⁉︎」

 今にもクロムへ斬りかかりそうだったフランは、急にその場を飛び退く。その行動に、クロムは疑問符を浮かべる。が、


 ————タァンッ————‼︎


 二人を丁度分けるかのように、間には結束した皮の紐のような物が叩きつけられた。それを避けるためにフランは退がったのだと気づく。——これは、鞭だ!

「フラン・ベルデルさん。八つ当たりは良く無いですわよ。貴女は良い方にも悪い方にも行動力はありますが、その悪い方をお直しになりなさいな、主席になれなかったのは、まだその己が内の剣に、彼よりそういう研ぎ残しがあったというだけですわ」

 鞭が左へ引っ込んだかと思うとそちらから、フランを叱る声が聞こえてくる。その声は、クロムにとっては懐かしいもので——フランとクロムはほぼ同時に声のしたそちらを向く。

 歳は、クロム達より少し上ほどに見える——灰色の髪の女性がそこにはいた。二人につられて周囲の者らもそちらを見るなり、先程より騒めきを強めた。

「「あっ⁉︎」」

 二人は驚きの大声を上げると同時に、フランは膝をつき、クロムはその場に立ち尽くす。

「クロム。ワタクシはちゃんと教えたはずだったのですが、“言葉遣いにはいつも気をつけなさい”と。まだ勉強が足りなかったようですわね」

「ゼルリィ姉さん……!」

 クロムが女性の名を口にする。すると、それに何かを感じたのか、フランが怪訝そうな顔をして、

「は? 何を言っているんですか。あの方はゼルリィなんて名前ではありませんよ? それに姉さんって……。

「失礼だろ」というような目で、フランは見てくる。

 ——自分の記憶には間違いがないはずだ。何故なら、あの人との付き合いは長いのだから。彼女の反応に、クロムは心外そうな表情を浮かべる。


「……あの方は——リーゼル・K・ヴァリアス様——この国の第一王女です」


「え。…………ええええええええええええ⁉」

「過剰に驚き過ぎですわ」

 ついつい、ティファルに告白された時と同じ反応をし、ゼルリィいや——リーゼルに冷たいツッコミを入れられる。

「いや、だってそんなこと聞いた覚えないですもん!」

「当たり前ですわ。教えていませんし」

「——あ、あのすみません……!」

 クロムとリーゼルの会話に、ついていけなくなったフランが質問をする。

「お二人はどのようなご関係なのですか……⁉︎」

「僕の先生」

「ワタクシの生徒よ」

 ——周囲の喧騒が一層高まる。

「2年ほど前まで、ワタクシはこの子に言語、他人への接し方、礼儀……まあ、その他諸々教えていたのです」

「あはは……」

 クロムの表情が曇ったのを見て、フランは怪訝そうな表情をし、そこでリゼルは話を切る。

「——……無駄話はここまでですわ。貴方達も無駄な争いなどやめなさい。今日来たのは、クロム。貴方が我が妹に本当に相応しいかどうかを見極めに来たのですから」

 見極める……とは、恐らく専属の騎士としてということなのだろう。

「えぇ……。ゼルリィ姉さんなら長い付き合いなんだし僕のこと分かるでしょ? 何より知り合いに見られてると緊張するし……」

「しのごの言わずに動きなさい。フラン・ベルデルさんの行動の早さを見習いなさいな」

 見ると、フランは既に羊皮紙に書かれていた訓練舞台についていた。

「はい……」

 緊張が漏れた返事をすると、クロムも舞台へと向かった。




『ではこれより、一時間の訓練稽古を開始する! 稽古内容は互いに自身の技を相手に行うだけだ。だが、それらは全て寸止めだ。それが出来なければ、仲間に怪我をさせることになるということを意識してくれ!』


『『『はいッ!』』』


 ——全員、元気よく返事はしたものの、いざ行おうとしても、やはり寸止めというものは難しいものだ。見習い騎士生の大半は技を出そうとしても、躊躇してしまい形が崩れてしまっている。

 しかし、首席と次席の二人は、互いに躊躇いなく技を磨いていた。

「——ベルデル流剣技、《スレイヤ・フォール》!」

 頭上に大きく弧を描くように木剣を振り回し、勢いそのままクロムの胴の辺りにそれは鋭く落ちる。——本来ならこの技は、相手の胴を抉るものなのだろうが、訓練だったので寸前のところで木剣は急停止。……クロムは肝を冷やす。

(稽古だとわかってはいても、やっぱり技を受けると怖いな……)

「次はフェイカ君、貴方の番ですよ」

「うん」

 軽く返事をすると、クロムは木剣の柄下を左手だけで持ち、手首を器用に使ってくるりと回すと、肩で担ぐかのような構えを取ったかと思うと、その刹那——

「——ッッ⁉︎」

 フランの頭部に風が轟ッと強く当たり、思わず目を閉じる。金糸のような髪はファサファサと勢いよくなびき、やがて動きを止めた。

 ゆっくりと目を開けると彼女は顔を青くして動きを固まらせた。それは、クロムの木剣が、彼女の顔の真横に在ったから。しかも剣を振る初期動作すらもフランは目を閉じていたせいで完全に捉えることができなかった。

(今のは、一体……!)

「じゃあ、次はベルデルさんの番だよ」

「…………」

「ベルデルさん?」

「ッ! わ、わかりました!」

 クロムの技に気を取られ呆然とし、やっと声をかけられていたことに気づいたようで、ハッとした様子でフランは慌てて剣を正眼に構え、技を行なってくれた。


 ——が、


「ッ‼︎」

「ギャフッ⁉︎」

 焦ったからだ。フランの木剣の峰は止まることなく、クロムの脳天に吸い込まれるように入った。

 木剣のコンッ! という音が辺りに響き、頭に物が落ちたかのような鈍い痛みが走ったかと思うと、クロムの視界は焦る表情のフランを移した後、ゆっくりと暗転していった。







 ——人物紹介を入れるつもりだったのですが、アドバイスをもらい、今後は別々にすることにしました!

 ご理解いただけると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星剣使いの見習い騎士 瑞谷 桜 @mizutani_ou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ