結婚式(21)

「たすけてー」


 か弱く総一郎そういちろうが言うと、会場の子どもたちが必死に、「離せ、放火魔王!」、「ひどいぞ!」「お兄ちゃんをいじめるなっ」と怒声を張ってくれた。


「こんな時はヒーローを呼ぼう! 消防レンジャーだっ」

 冴村さえむらが呼びかけ、会場の大人たちはくすくすと笑いだす。


 なにしろ。

 もう、登場の為のエンジン音が神社の外から聞こえだし、拝殿では吹奏楽部が楽器の演奏開始の体勢を整えたからだ。


「いいかい。私が、「せぇの」というと、『助けて、消防レンジャー』って言うんだよ」

 冴村が発語よくそう言うと、会場から元気な子供たちの返事が聞こえる。「よし」。冴村は応じると、大きく息を吸った。「大きいお友達もお願いしますよっ。せぇの!」。そう掛け声をかけると、


「助けて、消防レンジャー」

 子どもたちは大声を張り、おれたちもお義理で声を上げる。


 途端に。

 吹奏楽部が軽快な音楽を演奏し始めた。


 同時に、門から境内に飛び込んできたのは、4台のバイクだ。上半身はゴレンジャーのような格好だが、下は消防士の隊服だった。


 人が多いから、勢いが良かったのは最初だけで、あとは徐行でのろのろと拝殿まで進むが、こどもたちは大歓声だ。


 その後、境内の端っこに急いでバイクを停めた四人は、ダッシュで拝殿前に戻ってきてポーズを決める。


 なんでも、「インパルスレンジャーレッド」、「ホースレンジャーブルー」、「消火器レンジャーグリーン」、「AEDレンジャーピンク」らしい。


 冴村がさりげなくレッドにマイクを渡すと、あとは放火魔王とのマイクパフォーマンスが始まった。


「あ。そうだ、お兄さん。取材が来てるんですよ」

 まるでコントのようなそのやり取りをニヤニヤしながら見ていたら、白鷺しらさぎに声をかけられた。


「取材?」

 言ってから、もう一口お神酒を飲む。意外にうまい酒だ。


「ケーブルテレビなら嫌だぞ。眉毛ないから」

 そう答えると、「ぶぶっ」と白鷺は噴き出してから、「フリーペーパーです」と答えた。


「フリーペーパー? マスコミはケーブルテレビと新聞だけじゃないのか?」

 おれが不思議に思って尋ねると、少し白鷺は眉根を寄せた。


「いつも飛び込みで来るんですよ。取材の時は事前連絡してくれ、って言ってるんですが……。情報提供は他のメディア媒体と同じように行っているので、都合よくこうやって来る……」

 白鷺が語尾を消す。


 ちらりと背後に視線を送る様子に、こちらに近づいてきたカメラバックを担いだ若い男がそうだと知れた。


中條ちゅうじょうです」

 男は、フリーペーパーの名前を告げ、にこやかに笑うと、片手で名刺をおれに突きだした。


 おれはその名刺を見おろし、斜交いに彼を見上げる。

 こうやって、ぞんざいに名刺を渡す男は要注意だ。


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