結婚式(22)

菅原音葉すがわらおとはです。運営委員長をしています」


 言いながら、おれも片手でぞんざいに受け取ってやる。年はおれと同い年ぐらいに見えるが、なんともにやけた顔をした男だ。


「ですってね。新婦のご親戚はどこに、って聞いたら農作業ボラの竜さんが、あの運営委員長の兄ちゃんがそうだ、って教えてくれてびっくりしましたよ」


 そう言って、立てた親指で境内の一部を指す。顔を向けると、農作業ボラのじじぃが片づけの指示を出していた。もう、完売らしい。目が合うと、何を勘違いしたのか、Vサインを送ってきた。


「新婦のお兄さんなんですよね」

 おれは頷く。


「この結婚についてお聞きしたいんですが」

 中條ちゅうじょうはカメラバックを担ぎなおし、同時にジャンパーの内ポケットから小さなメモ帳とボールペンを取り出した。ふと視線を感じて顔を向けると、白鷺しらさぎがむっつりした顔で中條を見下ろしていた。いつになく険しい顔をしている。


「なんですか?」

 おれは白鷺の顔を不思議に思いながら中條に言葉を返した。


「障がい者の男性と娘さんの結婚に、やっぱりご両親は反対なわけですか?」

 中條の言葉におれは正直、絶句した。


 ただ呆然と、ペンとメモ帳を構えるヤツを見つめる。中條は、どこか総一郎にも似た穏やかな笑みを顔に浮かべ、少し首を傾げておれを見上げていた。


「さっき、社務所のボラさんにお聞きしたら、ご両親はいらっしゃらない、って聞いてね。あ、これはあれか、反対されてるんだ、って思って」


「中條さん、貴方いくらなんでも失礼でしょう」

 白鷺が鋭い声を発し、おれはようやく金縛りにあったような状態から抜け出し、小さく息を吐いた。


「だって、そうでしょ? 新婦の親戚って、お兄さんだけだし」

 中條はにっこり笑うと、おれに更に尋ねる。


「障がいのある男性と結婚するにあたり、お兄さん的にはどう思ってます? こうやって地域の催しに参加させて、なにをアピールしたいんですか?」


 次々と。

 中條はぺらぺらとよく喋った。


「記事にしようと思って」、「障がいに理解がある福祉職員と障害者の結婚、とか」、「両親の反対を押し切っての結婚、とか。良いでしょ。ウケそう」


 言われるたび、「ああ、言葉って当たるとイタいな」とぼんやりと思い、それから。


 ああ、こんな視線や言葉を。

 総一郎は毎日にこやかに笑って躱して生きている、と痛感した。


「あのさぁ」

 おれは受け取った名刺をヤツに突き返した。中條は不思議そうに目を瞬かせる。


 いや、おれは気づく。これは、嘘だ。こいつの演技だ。

 こうやって、おれをイラつかせ、何か引き出したいのだろう。


「おれが妹の結婚を認めたのは、その相手が日置総一郎ひおきそういちろうだからだ」


 おれは中條のジャケットの内ポケットに名刺をねじ込むと、肩をすくめてみせる。まじめに取り合うつもりは無かった。


「障がいがあるとかないとか関係ない。喋ってみて、あいつが妹を幸せにしてくれそうだからだ。で」

 おれは小さく笑った。


「この催し物だって、妹の仕事関係で知り合った皆が意気投合してやってくれたことだ。おれは知らん。ただな」

 中條の鼻先に人差し指をつきつけて見下ろす。


「次、もう一回総一郎と妹に関して無礼なことを言ってみろ。そのにやけた面、ぶん殴るからな」


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