結婚式(20)
「ありがとうございました! 中学生の皆さんに、盛大な拍手を!」
境内に、マイクを通した
おれは紙コップを持っていない方の手で、ぽんぽんと太ももを叩く。
「あの人、上手いね」
おれは拝殿の下でマイクを持ち、司会をしている冴村を指さして
「そりゃそうですよ。いろんなイベントもこなされてますから」
白鷺は肩を竦める。礼服の袖には『町広報』という腕章を嵌めていた。
「ボランティアコーディネーターって、そんなこともするの?」
驚いて尋ねると、白鷺は笑った。
「何でも屋ですね」
同時に、境内で警報が鳴り響いた。
一瞬おれは身構え、境内に視線を走らす。参加者も同じだ。不安げに互いを見比べ、様子を伺っている。
「落ち着いてください。……これは……」
マイクを通して冴村が不安げに囁く。
「子どもたち! 早くお父さんとお母さんのところにっ」
冴村がそう注意を促した途端、その辺を駆け回っていた子どもたちが、一斉に両親らしき人たちのところに戻っていく。
「ひょっとして」
冴村が良く通る声でそう言った時だ。
「はーっ、はっはっはっは!」
突如高笑いが聞こえ、なんとも不穏な音楽を中学生吹奏楽部が奏で始める。
「現れたな、放火魔王!」
冴村の怒声と同時に、
「オレ様は火の悪魔、放火魔王だ!」
ひな壇の二人の背後で高らかに名乗りを上げるが、『放火魔』なら、火の悪魔ではなく、普通に極悪人だ。
「今日は面白そうな催しがあるからやって来てやったぞ! 会場と新郎を燃やし尽くしててくれるっ」
こちらも、コードレスマイクを仕込んでいるのだろう。やけに声が響いた。言うなり、放火魔王は、総一郎の首を後ろから締め上げるふりをする。
「ついでに、積年の恨みをここで晴らしてやるっ! いつもうちのボランティアを引き抜きやがってっ、社協ボラセンめっ」
「ああ、総君っ」
演技がかってはいるが、琴葉が悲鳴を上げた。それに応じるのは、冴村だ。
「私怨はやめろ! 消防の扱いが悪いから、ボランティアがうちに流れるんだろうっ! 私の後輩の婿を離せ!」
こちらはさすがにサマになっている。ポーズをびしりと決めると、会場に向かって「こどもたち!」と呼びかけた。
「このままでは、あのお兄さんは、放火魔王に燃やされてしまう!」
ええ、と怯えたのは、子どもたちだけではなく、総一郎もだった。その姿を、あやめが嬉しそうに激写している。
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