結婚式(19)

 神主のにしきは「初詣でもこんなに来ないよっ」と、さっき慌てて追加のお守りだの絵馬だのを倉庫から出していた。商魂たくましいじじぃだ。


 見物客は、買った野菜の袋を下げていたり、無料炊き出しの発泡スチロールの椀を持ったりしながら、拝殿を眺めたりしていて、時折思い出したかのように、拝殿側に設えている特等席に座る、琴葉ことは総一郎そういちろうに「おめでとー」と言ったりしていた。あいつらの友人は合わせて6人しかいないので、ここにいるほとんどは、いわば『他人』だ。だけど、見物客は嬉しそうに言祝ぎ、ふたりも、「ありがとうございます」とそのたびに律儀に頭を下げていた。


 そんな様子を。

 こうやって境内の端から眺めていて思う。


 うちの両親、馬鹿だなぁ、と。


 おれはまだ子どもを育てたことが無いし、ひょっとしたらこの先、そんな機会がおとずれることはないかもしれない。


 だけど。

 祝われ、恥ずかしそうにお互い見つめ合って礼を言うあの二人を見ずして。


 何の為に金をかけ、手間をかけ、時間をかけて子どもを育てて来たんだろう。


 幸せだと今実感し、それがひとりでは感じられなかった「幸せ」なんだと気づいて、微笑みあうあの「我が子」を、どうして観に来ないんだろう。


 総一郎の両親が途中から姿が見えないと思ったら、社務所の端っこで号泣していた。


『あの子は本当に幸せ者だ』

 そう言って泣くお母さんの背を、お父さんは頷きながら撫でていた。


 あやめとかいうあの妹もそうだ。総一郎の前では偉そうな口を叩いていたが、おれや夏奈なつなには丁寧に頭を下げ、『ご迷惑をかけると思いますが、兄のあんな幸せな顔を見て安心しました』と礼を言ってくれた。


 聞けば。

 この家族は、再婚だという。


 血のつながりなど関係ないのだと思った。

 子だと、兄だと、思った者が、その幸せを願うのは当然のことで。


 その幸せを守り、育ててやろうと思うのが、家族なんだろうとおれは思う。


 だから。

 馬鹿だなぁ、うちの親、と感じるのだ。


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