結婚式(16)
というのも。
廊下には、おれたちに向かって左手に
その琴葉の真正面に、紺色の可愛らしいワンピースを着て、白いポーチを肩からかけた女の子が立って、バシャバシャ写真を撮っている。
「そこに立つと、コトちゃんが見えないって」
勝気そうな、だけど小鹿のような丸く大きな目をしたショートカットの女の子だ。二〇代前半というところだろうか。
「総一郎、感謝しなさいよ」
首にカメラをかけると、あやめと呼ばれた女の子は胸を反らした。
「ものっすごい良い写真が……」
「いいから、どいて」
「はぁ!? なにそのモノの言い方っ」
「どいて」
「いやだ」
「どいて」
「いーやーだ」
「どいて」
どいて、いやだ、の応酬を延々繰り返す総一郎とあやめを、おれは唖然と見つめた。
どちらかというと大人しい印象が強かった総一郎だが、何故かこのあやめという女の子にだけは強気らしい。
「あの、あやめちゃん。そろそろお兄さんに、琴葉ちゃんを見せて上げて」
夏奈が苦笑してそう声をかけ、あやめは「はぁい」と可愛らしく返事をしたけれど、総一郎の鼻先に人差し指を突き立てた。
「夏奈さんが言うから、どくんだからね」
そう言って、身をかわし、壁に背をつける。
そうして。
ようやくおれと総一郎、冴村の前に琴葉が現れた。
「おお」「あらあら」
おれと冴村は同時に声をあげる。
その視線の先で、琴葉は恥ずかしそうに目を伏せて微かに笑っていた。
白い綿帽子を被り、白無垢に身を包んだ琴葉は、これはまたなんとも愛らしい姿だった。
身長が低いせいもあるのかもしれない。
ちまっ、とした印象はあるのだけれど、それがまた『守ってやりたい』と思わせるような雰囲気を漂わせている。
白無垢だから派手さはないのかな、とおもっていたが、どうしてどうして。
可憐でいいな、とおれは認識を改めた。
神社で式を挙げると聞いた時は、『洋装の方が女は喜ぶんじゃないか』と夏奈に相談したりもしたけど、これはいい。これはこれでいける。
あの綿帽子もいいかんじじゃないか、とおれは思う。
俯き加減にすると儚くていい感じだ。なんでも、『夫以外に顔を見られないように』という意味もあるそうだが……。見えにくいのもまたいいもんだ。
じろじろ見ていたからかもしれない。
琴葉と目が合う。
琴葉は眉根を寄せ、むぅ、と口を尖らせた。
「かつらが重いから俯き加減になるし、着物も重いから、ちょこちょことしか動けない」
「そんな夢を壊すようなことを言うな」
おれが叱りつけ、冴村がくすりと笑いだしたけれど、琴葉の隣にいて、おれたちと向かい合っていた夏奈が、「ち、ちょっと」と声を上げる。
「へ?」
驚いて夏奈の視線を辿り、おれたちは一斉に総一郎を見た。
「……馬鹿かお前」
「ちょっと、総君」
おれと琴葉が呆れたように言葉を吐いた。
その先で。
総一郎は、ぼたぼた涙を流して泣いている。
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