結婚式(15)

「そうですか? 僕的には大変身だいへんしんですけど」


 その言葉に、冴村さえむらが軽快に笑ったあと、総一郎そういちろうに頭を下げた。


「この度はおめでとうございます」


「ありがとうございます。冴村さんも大役を引き受けて下さり、本当に感謝しています」

 総一郎も頭を下げる。総合司会のことを言っているのだろう。


 十一時から始まる挙式は、拝殿で行うのだけど、これが境内から丸見えなのだ。


 参加者は思い思い見て、言祝いでくれと総合司会はまずアナウンスを流す。

 その後、式が終了すると、拝殿は片づけられ、雅楽の演奏会、その後、中学校の吹奏楽部が演奏をし、最後に神主の姪たちが巫女装束でなんか踊るらしい。


 その間。

 境内では、ばばぁたちが炊き出しを行い、農作業ボラが野菜の直売会を行う。ゆるキャラかっしーが柏餅の実演販売を行う中、消防レンジャーがミニレンジャーショーを披露するそうだ。


 その。

 総合司会が、冴村。


 当初、「……これはおれなら、やりたくない」と思ったのだが、冴村は琴葉の依頼に快諾したそうだ。


『これを仕切れるのは私ぐらいだろう』と。


菅原すがわらさんの花嫁衣装は見たの?」

 冴村が首を傾げ、総一郎は「いいえ」と答えた。


「なんだ、見てないのか。着替え、一緒じゃないのか?」

 おれが驚いて尋ねると、総一郎は真っ赤になる。


「一緒の部屋じゃないですよ。ちゃんと別れてます」

 別に一緒でもいいだろう、と言いそうになったとき、ぱらぱらと拍手の音が遠くから聞こえてきた。


 総一郎が出てきた、社務所の奥の方からだ。


「菅原さん、きれい」、「琴葉ことはさん、こっち向いて!」、「ゆっくり歩いてね、ゆっくり」

 いくつもの女性の声が聞こえ、そのあとシャッター音が続く。


「こっち、来るみたいですね」

 冴村がおれの方を見てそう言った。


「おお」

 返事をしながら、おれはなんだか緊張する。


 きしきしと廊下の軋みが聞こえ、それにパチパチという幾重もの拍手が重なった。


 徐々に「おめでとう」の声が近づき、廊下を曲がってまず現れたのは。

 黒留を着た夏奈なつなだ。


 どうやら、琴葉の手を引いているらしい。

 その彼女の影から白い綿帽子が見え隠れしている。


 だけど。

 おれの目が釘付けになったのは、夏奈の方だった。


 普段は長い髪を無造作に束ね、右肩に流していることが多いのだけど、今日は和装に合せて結い上げているらしい。

 桃色の生花を挿し、アップにしているせいで襟足がなんとも色っぽい。


 おお、おれの嫁さん、実は和服美人だった、と魅入っていたら、夏奈と目があった。


「綺麗でしょ」

 目元まで綺麗に化粧しているせいか、そういって笑うと艶っぽい。


「おお……。そうな」

 真面目に返事したら怪訝そうな顔をされた。


「ちゃんと見た? 琴葉ちゃん」

「………あ。琴葉……」

 言われて斜め後ろに立っている琴葉を見ようとしたけれど。


「ちょ……。あやめ、邪魔っ」

 総一郎が珍しく苛立った声を上げた。

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