結婚式(13)

                ◇◇◇◇


「お疲れ様でしたね」

 怒りながらコンセントの差込口にガムテープを張り付けていたら、軽やかな声が背後かからかかり「ああああん!?」と唸るような声を漏らして振り返る。


 なんだよ。また、苦情かよ。


 正直そう思いながら振り返ったのだが。

 廊下に立ち、おれに紙コップを差し出していたのは、冴村さえむらだった。


「また、何か問題がありました?」

 きっちりと口紅を塗った唇が緩く三日月を象る。彼女の目が見ているのは、おれがベタベタにガムテを張り付けたコンセントだ。


「あいつら、ブレーカーが落ちるからコンセントは、給湯室だけ、って言ってるのに、使いまくりやがってっ」

 おれは怒鳴り、立ち上がる。


「もう、実質使えないように、ガムテを貼ってやるっ」

 さっきから『運営委員長、電気が使えない』という苦情ばかりが上がってくる。


『だから、ブレーカーが落ちてるんだって! 湯沸しポットは給湯室だけで!』

 何度もばばぁたちにそう言うのに、湯沸しポットとコンセントを持って社務所内をうろうろし、見つけたコンセントに差し込んでブレーカーを落としてくれる。


「なんであんなに、ポットが必要なんだっ!」

 苛立ちまぎれにおれは怒鳴る。「ひとばばぁ、ひとポット」ぐらいの勢いだ。


「お湯、使うんですよ。ほら、こうやってお茶の接待するから」 

 冴村は可笑しそうに笑い、おれの手に紙コップを滑り込ませた。


「数人お客さまが来る、というわけではないからね。ボランティア団体、吹奏楽部の生徒さんたち、自治会」

 冴村は歌うように数え上げ、おれと目を合わせてにこりと微笑む。


「それが数十人まとまりで来る。ポットのお湯なんてすぐなくなっちゃう」


 ……言われてみれば。

 そうかもしれない。

 それに、朝早くから準備しているばばあたちも休憩のためにお茶ぐらい飲むだろう。


「ポットの湯が必要になるのは、今だけですから。あとは大丈夫だと思います」

 冴村はそう言うと、「それからね」と、黒いスーツのポケットから油性マジックを取り出した。


「貼っただけでは、ボランティアさんたちは、剥がして使いますから」

 言うなり廊下に屈みこみ、おれが貼りつけたガムテの上から『使用不可』と慣れた手つきで書きつけた。


「……なるほど」

 思わず呟くと、「これで、『故障』だとおもいますよ」。冴村はそう言って立ち上がった。


「お兄さんも、そろそろ準備して下さい。菅原すがわらさんの準備が整ったようです」

 冴村に言われ、おれは驚いて腕時計を見る。


 十〇時三〇分。

 挙式は十一時だと言っていた。


 おれはまだ着替えてもいない自分に焦り、慌てて紙コップに口を付ける。そしてその熱さに「うぇ」と声を漏らした。

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