結婚式(11)
「配線って、なにすんの。境内に電気付ける、ってこと?」
おれがばあさんに尋ねると、「このままじゃ、暗くて炊出しできないでしょ」と口をへの字に曲げる。懐中電灯に照らされて陰影がはっきりするせいで、その表情はまるで魔女だ。
「どっかから、コード引っ張ってきてるのか? おれ、一応電気工事士の資格はあるんだけど……」
道具を忘れた、ということは何か取り付けが必要だったんだろうかと思ってそう口にしたのに、ばあさん達が騒ぎ始めた。
「この人、できるって!」
「ちょっと、待て!」
おれは慌てて制止の声を上げる。
「状態を見ないとわからんっ! だいたい、あんたら、電気工事士って、知ってるか!?」
「知らないけど、つなげるんでしょ!?」
「ほら、早くして! もう時間押してるからっ」
口々にばあさん達は言い、おれの手を引っ張って境内に引き込んでいく。
怖い!!!!
魔女の集団に連れ去れる生け贄の気分だ!
「待てって! どんな配線なんだよ!」
必死に叫ぶと、おれの背中をぐいぐい押している知らないばばぁが、「配線の
「だいたい、配線の片岡って誰だよ!」
「緑が丘の片岡さんよ」
「知らねぇわ!」
おれが怒鳴りつけた矢先、集団の動きが止まった。
おれの声に怯んだのか、と思ったがどうやら違うらしい。
「あれ、あれ」、「配線の片岡さん、いっつもあの箱みたいなの触ってる」
一斉にばあさんたちが指さすものを、おれも目を凝らしてみた。
場所は、手水鉢近くの売店だ。
たばこ屋ぐらいの間口の小屋で、今はシャッターを閉めているが、日中は開けておみくじやお札を販売している。
その、外壁上方にとりつけられている何かを、皆は言っているらしい。
「分電盤か? ちょっと、懐中電灯当ててみて」
おれが言うと、ばあさんたちは素直に外壁を照らしてくれた。
幾分かはましになったが、それでも遠いせいか光がぼんやりとしか届いていない。だいたい、ばぁさんたちが持っている懐中電灯もいただけない。誰も彼もがLEDではないのだ。
おれは、外壁に近づく。
梯子が立てかけられ、壁の下には片岡さんとやらの工具箱が乱雑に置かれているのが見えた。ドラムコンセントもあるということは、やはり分電盤なのだろう。
顔を上げ、壁を見上げると、木の箱のようなもので覆われているが、よく見えない。
おれはため息をつき、ハシゴに足をかけた。
「上。出来るだけ照らして」
ばあさんたちにそう命じて、一歩登った時だ。
「おはようございます。みなさん、早いですね」
凛とした声が境内を打った。
「あ!
ばあさんたちが華やいだ声を上げたことと、その名前に動きを止めた。
「……冴村さん」
呟いてゆっくりと振り返る。
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