結婚式(10)

                ◇◇◇◇ 


 おれは神社の門に小走りで駆け寄りながら、「ええー……」と思わず呟いていた。

 もう、いるのだ。


『ボラさんたちの集合時間は早いから! 三○分前でも遅いぐらいよっ』

 琴葉ことはに聞いたときは半信半疑だったが……。

 集合時間三○分前に駐車場に車を入れて来てみれば、もう、神社の門には人だかりが出来ている。


 もうすぐ4月とはいえ、朝の五時半はまだ暗い。


 参加者の持った懐中電灯が門前のあちこちで光っていて、なんとなく『焼き討ち前』という印象をおれに与えた。


 おまけに、ばばぁ同士互いの顔を懐中電灯で照らし合って大声で何事か話し合っているものだから、なんとなく『怪奇現象感』が否めない。


「あ。運営委員長」

 そのうちの一人がおれに気づいたようだ。懐中電灯の光がおれに向けられる。


「おはようご……、って、まぶしいわっ」


 一斉におれに懐中電灯を向けるから思わず怒鳴りつける。愉快そうな笑い声が懐中電灯の一団から上がり、おれは顔をしかめて近づいた。


「早いっすね」

 嫌みのつもりで言ったのに、「運営委員長が遅い」と言われた。


「いや、集合時間、六時っしょ?」

 近づいて気づいたが、どうも『趣味の料理サークル』の一団らしい。ばぁさんを筆頭に女性しかいなかった。


 珍しいな、とおれは目を細めて見渡す。

 あの後、何度か打ち合わせで実行委員と顔を合わせたが、いつもいるにしきや農作業ボラのじじぃの姿が見えない。


 ちなみに、なんだかおれはやけに気に入られ、『打ち合わせの打ち上げ』という謎の集会に連れて行かれ、じじぃ共と総一郎そういちろうと一緒に飲んだりもしたが、気の良いじいさん達だった。普段、「おっさん」とは仕事をしているが、親の年代より上の人間と話したり交流したりすることはほぼない。


 だから、ジェネレーションギャップというのか。

 話してみて驚くことも多い。

 第二次世界大戦の話をリアルに知っていたり、もう古語のような方言で話しかけられたり……。「わし等世代は山羊の乳で育った、粉ミルクなんて上等なもんはなかった」、といわれて「嘘だぁ」と総一郎と二人、驚いたりした。


 ただ、じじぃ達は、年は食っているが、脳みそまで硬いわけでは無かった。

 こうやっておれ達を飲みに誘うぐらいだから、『若い』のだ。


 スマホやタブレットを駆使して天気図を自分で読み取ってみたり、化学肥料の配合を独自に編み出したり、おれも知らないような若者言葉を教えてくれて時は驚いた。なんでも、その人は、孫さんから聞いたらしい。


 そんなじじぃ達に共通するのは。

「女と子どもは大事にしなくてはいけない」

 ということだった。


 ある程度の男尊女卑感覚は確かにあるのだが、その根底にあるのは、『基本的に女子供は弱い』から、『男の後ろにいろ、守ってやる』ということなのだ。女や子どもを馬鹿にしている、というよりは、目の届くところで保護してやりたいから、『男の言うことをきけ』ということらしい。


 だから。

 神社とは言え、こんな暗いところに、高齢ではあるが達を放置していることが珍しいな、とおれは思った。


「配線の片岡かたおかさんが、『道具忘れた』って帰ってしまってね」

 料理サークルのばあさんがおれに話しかける。


「農作業ボラの兄ちゃんたちは、今、畑に行っているし……。暗いままなのよ」

 ばぁさんの言葉に、他のおばちゃんたちはそこかしこで頷いている。


 なるほど。

 多分、ここに来るまでは男性陣もいたのだ。


 農作業ボラのじじぃは、その配線の片岡さんが居ると思ったから、この場を離れたのだろう。ところが、配線の片岡さんは道具を忘れ、ばあさん達を残してどこかに行ってしまい、途方に暮れているらしい。

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