結婚式(7)

「金のことは気にするな、婿さん」

 向かいの席から胴間声が響いてくる。あれだ。農作業ボランティアと名乗ったじじぃだ。


「趣味の料理サークルの炊き出し材料は、うちの農園から出すから金はかからん。皆ボランティアで出てくるから人件費もいらんしな。いつもホレ、世話になってるんだから、こういうときはいろいろ協力させてくれよ」


「いや、りゅうちゃん、高校と中学校の生徒さんには、ほら」

 にしきが促し、「おお、そうだ」と農作業ボラが慌てたように琴葉ことはを見た。


「学生さんには、なんかこう、可愛らしい菓子を用意してやってくれ」

「いや、そりゃ用意しますけど」

 困惑顔の琴葉に、それぞれの顧問がぶんぶんと顔の前で手を横に振る。


「うちは発表の場があればいいんで」

 そう言ったのは吹奏楽部の顧問で、写真部の顧問は、

「うちは写真の題材が欲しかっただけで」

 と、笑顔で腹の内を語った。


 なるほど、とおれは改めて会場を一瞥する。


 農作業ボラのように「世話になってるから恩を返させてくれ」というグループと、学校のように「魂胆があります」というグループに二分するらしい。


 たまたまおれと目が合ったのは消防だ。庄内しょうないと名乗った青年は快活に笑って告げた。


「うちは、境内で消防レンジャーの寸劇をさせていただき、啓発、周知をさせていただくことになってます」


「……消防レンジャー」

 呟くおれの隣で、総一郎そういちろうが「お疲れ様です」ともっともなことを告げた。


「商工会は、かっしーの着ぐるみを着て、柏餅の実演販売を」

 すかさず古木ふるきが口を挟んでくる。「はぁ」。唖然と頷くおれと、「ありがとうございます」と応じる総一郎。


 琴葉はもう、立ったまま凍り付いている。


「町としては、こういった催しを広報等で周知しようと思いまして」

 白鷺しらさぎが微笑んだままおれたちを等分に見てそう言った。


 最早。

 琴葉と総一郎の結婚式は、『催し』と化しているらしい。

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