結婚式(8)
「で、組織図なんだけど」
「一番上に、『運営委員長』を置くだろ? で。その下に、『ステージ部門担当』と『屋外担当』を配置して、それと別に『総合司会』を置きたいんだよね」
「運営委員長は、神主でいいだろ」
素早く発言したのは、農作業ボラだ。日に焼けた浅黒い肌を、骨太の手で一撫でし、腕を組んで錦をみやる。
「あんたがしろよ」
「わたしは、神事で無理だよ。臨機応変になんて無理」
錦が顔をしかめ、「そりゃそうだよ」と返事をしたのは、小太りの雅楽サークルのじじぃだ。
「それに、うちも無理だ。挙式の間ずっと演奏してるんだから」
その一言に、会場が荒れた。
「それを言うなら、うちだって仕込みがあるわよ」、「うちは明け方から準備の予定だ」、「忙しいのは皆一緒だろ」
席を立っての怒号や、指さしでの糾弾までが始まり、呆然と言葉を無くすおれの隣で、
「あの、じゃあ、僕が実行委員長を引き受けましょうか」
右手で挙手をし、発言をした途端、ぴたりと皆の口が閉じた。
「本来、僕たちの結婚式なんですし……。実行委員長、あの……。僕で」
皆の視線を受け、総一郎はおどおどした様子で、だがしっかりと芯のある声で会場を見回して告げる。
「どう、でしょうか」
再び尋ねると、「どうって……」と農作業ボラが困惑し、「言われてみれば、それもありか」と雅楽が言う。
「いや、そりゃダメよ。だって、なんかあったときに相談に行くのよ、私たちが」
声を張ったのは料理サークルのばぁさんだった。多分、この集まりの中で最年長ではないか、と思うが、そうとは感じさせない声の艶だ。
「プロパンガスの調子が悪いんだけど、って相談に行っても、指輪の交換とかしてたらどうするのよ。式の運営を止めてまでガス会社と連絡してもらうの?」
ばぁさんの尤もな意見に誰もが「うぅん」と唸った。おれでさえ、「それはない」と思ったぐらいだ。
「……にいちゃん、どうだ」
最初、農作業ボラの呼びかけが、おれにむけられたモノだったとはきづかなかった。
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