結婚式(6)

「自己紹介、回して!」

 言われて「はい」と応じたのは、北側の壁に座るスーツの男だった。琴葉ことはとは面識があるのか、にこりと笑いかけている。琴葉はあいまいに応じ、のろのろとイスに座りなおした。


柏木かしわぎ町役場企画政策課広報担当の白鷺しらさぎです」


「……広報担当」

 思わず呟く。視線を感じて左隣を見ると、おれと同じような顔で総一郎そういちろうが首を傾げていた。


「柏木町商工会の古木ふるきです」

 自己紹介が次に回ったようだ。白鷺の隣のスーツ男が頭を下げる。「このたびは、おめでとうござます」。琴葉にそう言うモノだから、琴葉はひきつった笑みで「ありがとうございます」と返している。


「柏木町消防救急救命係担当の庄内しょうないです」


「消防!?」

 さすがにおれと総一郎は大声を張り上げる。

 琴葉など、もう机に突っ伏して動かない。

 なるほど、あの薄いグレーのシャツ、よく見れば徽章もついてる。消防の隊服か、あれ。「おめでとうございます」と、にやりと庄内は笑ったが、琴葉はぴくりとも動かなかった。仕方なく総一郎が代わりに応じる。


 その後も、自己紹介は続いた。あとはじじぃとばばぁばかりだ。


 高齢者大学雅楽演奏サークル代表、柏木西中学校吹奏楽部顧問、柏木高校写真部顧問、柏木町趣味の料理サークル代表、雪原ゆきはら地区自治会長、柏木町ボランティアセンター登録グループ農作業ボランティア、同じく園芸ボランティアなど、正直所属は覚えても、名前までは覚えられない。総一郎は律儀に、途中からA4用紙に席順と所属、名前を書き込み始めていたので、「……後で見せてもらおう」という魂胆もあった。


「以上、菅ちゃんの結婚式を盛り上げるための実行委員達です」

 錦がそう締めくくり、琴葉が、がばりと上半身を起こした。


「待ったぁ!」

 そう叫び、再び立ち上がる。


にしきさん、私、こじんまりとした式をって、言いましたよね!」

 再び口にすると、襖に一番近い席で立ったままの錦が顔をしかめた。


「地味だよ、これ。本当は氏子の皆さんにも手伝ってもらおうと思ったんだけどさ」


「勘弁してっ!」

 青ざめて琴葉が叫ぶ。おれはこっそりと隣の総一郎に尋ねた。


「これ、いくら神社に包むんだ?」

「先方からは、諸経費込みで5万円でいいって」

 総一郎が顔を寄せておれに言う。ふわりと鼻先を柑橘類の香りが漂った。くそ、こいついっつも思うんだけど良いにおいがするな。

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