結婚式(5)

「ということで、皆さんにとってはお互い、初めて会う、ということもあるでしょうし、今から時計回りに自己紹介をしていただきたいと思います」

 言うなり、山羊じじぃは、「まず私から」と声を上げた。


雪原ゆきはら神社の二五代目神主の錦公彦にしききみひこでございます。このたび、すがさんからご指名を受け、挙式を執り行う……」


「嘘つけ、自分から売り込んだんだろ」「だいたい、『菅原』だ、『菅原すがわら』」

 山羊じじぃの挨拶が終わるか終わらないかの頃からヤジが飛ぶ。


「ということで、このあと、司会運営を行いますので、スムーズな議事進行に皆様、ご協力ください」


 山羊じじぃはヤジに怯まず、そう締めくくって挨拶を終えた。その後、にっこりと笑って隣の総一郎そういちろうを見る。どうやらヤツに「次、挨拶しろ」と言っているようだ。そういえば、時計回りだと総一郎の順番になる。


「座ったままで失礼いたします。このたびは皆様にいろいろとご協力をいただき、ありがとうございます」


 総一郎はよどみなくそう話し出し、「おお、こいつ意外にやるじゃねぇか」と思った矢先、


「僕は菅原琴葉すがわらことはさんのほんにゃく……」

 と、いきなり噛んだ。


「えー……。こ、んやくしゃ、である日置総一郎ひおきそういちろうと申します。よろしくお願いいたします」


 さすがに二回も噛めないと思ったのか、ヤツは非常にゆっくりとそう告げた。会場からは「ぷっ」と小さな笑い声が聞こえたが、それをかき消すように山羊じじぃであるにしきさんが拍手をする。それに従って、会場からはパラパラと拍手が起こった。


「あの。どぞ」

 総一郎は真っ赤になっておれを促す。


「初めまして。菅原琴葉の兄で菅原音葉すがわらおとはと申します」


 おれはそう言って会釈程度に頭を下げた。

 それに合わせ、会場の右手側に座るスーツ姿の男達が一斉に頭を下げる。


 彼らがなんだか会場で浮いて見えるのは、他がじじぃとばばぁばかりなのに、年が若いということとその服装だ。皆、スーツか、かっちりとした格好をしているのだ。


 なんかの、業者か?

 そう思ったが、それにしては愛想がなさ過ぎた。


「このたびは妹のことで色々と手数をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 再度深く頭を下げると、その頭越しに「ほう、菅ちゃんの兄ちゃんか」、「良い男だな。島んところの婿にどうだ」と小声が聞こえてきて苦笑した。


「あのですね……―っ」

 まばらな拍手を打ち消すように、おれの隣で琴葉が大声を上げるから、驚いて妹を見る。


「皆さんにお伝えしたいんですが」

 パイプイスを蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がり、琴葉は会場を睥睨する。


「私、こじんまりとした式を挙げたいって……」


「はいっ、菅ちゃんでしたっ」

 錦がぱん、とひとつ手を打ってそう言うと、会場から一斉に拍手が起こり、琴葉が言葉を失う。その瞬間を狙って、錦が次の発言を促した。


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