結婚式(4)

「お待たせ」

 山羊じじぃが襖を開けると、そこは大広間だった。


 ロの字形に長机を並べ、ひとつの机に2人の男性がそれぞれ座り、一斉におれ達に視線を向けた。さっきまで雑談をしていたようだが、口を閉じてこっちを見るモノだから、なんだか尻の据わりが悪い。


 そう思い。

 ふと、気づく。


 打ち合わせ、だよな、と。

 結婚式の打ち合わせに、こんなに人が必要なのか、と。


「そこ、座ってよ」

 向かいの席に座っているおっさんが、琴葉ことはに向かって顎をしゃくる。なんだかその横柄な態度にムッときたが、いつものことなのだろう。琴葉は「はいはい」と言いながら、大広間に入った。


 おれと総一郎そういちろうは顔を見合わせる。総一郎はにっこり微笑んで右手を差し出すから、なんとなくおれが先に入り、最後に総一郎が入室する形になる。


「えー、今日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます」

 襖に一番近い机の奥から、琴葉、おれ、総一郎が座るのを確認し、山羊じじぃが声を張った。なんとなく国語の教員を思わせる、平板な声だ。襖を閉め、それから机の端に置いたA4サイズの用紙を手に取った。


 なんとなく自分の目の前の机に視線を落とすと、イスの数だけその用紙は用意されているようだ。おれの席にもあった。


 手に取り、顔に近づける。眼鏡を持ってくれば良かった。そう思いながら目を細め、字を追う。


菅琴葉すがことは氏の』

 初っぱなから名前が間違っているが、それよりも先に議題を見てやっぱり唖然とする。


『菅琴葉氏の挙式について

 1 あいさつ 雪原神社神主 錦 公彦

 2 議題(1)結婚式運営委員長の選定について

     (2)ステージ部門担当者について

     (3)屋外部門担当者について            』


「……おい」

 おれは用紙を見つめたまま、隣の琴葉に小声で呼びかけた。


「この、ステージ部門とか屋外部門、ってなんだ」

「私に聞かないで、お兄ちゃん」

 琴葉が呻くように言うので、驚いて視線を向けると、妹は両手で顔を覆って肩を落としていた。

 思わず反対側の総一郎に視線を向けるが、こちらも用紙を凝視して首を傾げている。


 一体全体、わけがわからない。

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