ホーム(22)

「ひ、ひどいっ」

 盛大に笑いだすおれを、童顔は愕然としたようにみつめる。


「まぁ、だけどいいんじゃないか、首輪」

 笑いすぎて涙が出てきた。おれは指で拭いながら、琴葉ことはを見る。


「しっかりリードを、握っておけよ。まぁ、浮気しそうにないけどな」

「浮気だなんて、そんなことしませんっ」

 きっぱりと言い切る童顔を、おれと琴葉は見やって笑う。


「どうしようかな……。いいの?」

 ひとしきり笑った後、琴葉は童顔におずおずと尋ねた。


「いいよ、もちろん」

 童顔は頷き、それから琴葉の手を握った。


「一緒に買いに行こうね」

 そう言った童顔の語尾を、ホームのアナウンスがなぞる。


「電車が参ります。ご注意ください」

 おれは立ち上がり、二人を見た。


「結婚式の日どり、決まったら教えてくれ。夏奈と出席するから」

 童顔はぺこりと頭を下げ、琴葉はゆったりとほほ笑んだ。


「ありがとう、お兄ちゃん」

 その顔を見て、おれは思う。


 おれも、夏奈なつなにこんな顔をさせられるよう、頑張ろう、と。

 幸せの形が、『普通』と違ってもいいじゃないか、と。

 おれたちが二人で描く、『おれたちの幸せ』を作ろう、と。

 今日、そう夏奈に言おう。

 おれはそう誓った。



 そして、年が明けて三月。

 おれは、菅原家代表として夏奈と二人。

 たった、ふたりで妹の結婚式に参加したのだが。


 その、「奇妙な結婚式」については、また後日語ろう。





 番外編 お兄ちゃんとコトちゃん(終)

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