ホーム(20)

 聞いた途端、琴葉ことははわずかに目を見開いた。童顔を守るように抱きしめていた腕をだらりとおろし、おれを見つめる。


「だけど、あの両親はダメだ。多分認めるまでに相当時間がかかる。結婚式どころか、お前らに子どもが生まれったって、会いにさえ来んだろうよ。だから、だ」

 おれは頬杖を外し、ベンチの背もたれに上半身を預けた。


「あっちの家族は放っておけ。切り捨てろ。おれもお前も、もう「子」としての義理は果たしたし、今後も義理だけは通しておけ。理解は求めるな」

 琴葉と童顔が、黙っておれを見ている。おれは二人に提案した。


「兄ちゃんが、菅原家代表として夏奈なつなと一緒に結婚式に出てやる。子どもが生まれたら、出産を祝ってやる。節句をしてやる。それでどうだ」

 琴葉は、ただじっとおれを見ていた。童顔はしばらくおれを見ていたが、その視線をするりと琴葉に向ける。


「どうする? コトちゃん」

 穏やかな童顔の声に、琴葉は、おれから視線をやつに向けた。


「私は、お兄ちゃんが認めてくれたらそれでいい」

 琴葉の声はしっかりとしていて、ぶれがなかった。「そう」。童顔は微笑み、それからおれをみた。


「ありがとうございます、お兄さん」

 どういたしまして、とおれが返すと、琴葉は童顔と顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。


 なんだ、うちの妹、男を見る目があったな、心配することなかった、とぼんやりと考えながら、それから「あ」と声を上げた。


「そうだ、お前。指輪をもらってやれよ」

 琴葉に思わずそう言うと、驚いたように童顔を見た。


「え。お兄ちゃんに何言ったの?」

「何って……。相談を……」

 童顔はしどろもどろだ。おれは舌打ちし、座ったまま琴葉を見上げる。


「一生に一回なんだから、指輪もらっとけ。な?」

「そうだよ。買おうよ。僕、あの、その……。コトちゃんが、その……。好きそうな……。あの。今日ね」

 ああ、まどろっこしい、とおれは童顔の声を遮り、琴葉に厳命した。


「一緒に買いに行け、この童顔と」


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