ホーム(14)

「馬鹿だなぁ。女、連れて行けよ、女」

 呆気にとられてそう言うと、「だって、行かない、いらない、って言うんです」と潤んだ目で言われる。


「一応、値段とか、納期とか調べようと思って……。ネットじゃ細かいことまで分からないし……。でも、やっぱり、本人を連れてこないと……」


「そりゃそうだよ。変なの買って、あとでまた詰られるぞ」

 はう、と童顔は、今度は青ざめて変な声を出す。


「どうやって、店まで連れて行けばいいんでしょう」

「飯とか誘えよ」

 おれはマフラーに顎を埋めながら、童顔に言う。


「その店の近くの飯屋に誘って、飯食ってから散歩がてらフラフラ歩いてさ。『あ、寄ってみようよ』とか言え」

「……そんなんで寄りますかぁ?」


「寄る寄る」

 おれは数回頷いてやる。


「あんな店はな、女が好きそうなディスプレイとか色とか音とか使ってんだよ。もう、連れ込んじまえば、こっちのもんだ。あとは店員がどうにかしてくれる。店員にアイコンタクトでも送っておけ。ようはな」

 おれはスーツのポケットに手を突っ込み、童顔を真正面から見据えた。


「いかにその店に連れ込むか、だ」


「………なんか、参考になりましたが、言い方が、いかがわしいですね」

 童顔は複雑そうな顔でそう言ったが、「勉強になります」とにぱり、と可愛らしく笑った。


「お前さ」

 おれはその笑顔を眺めながら、もう一度背もたれに上半身を預ける。「はい」。童顔は礼儀正しく返事をした。


「結婚、反対されなかった?」

 前置きとか、オブラートに包んで、なんて考えなかった。


 どうせ他人だ。

 たまたま出会っただけの関係だ。

 嫌われようが、傷つけようが知るもんか。

 そう思っていた。

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