ホーム(12)

『普通』ではない男を恋愛対象としてみることのできる女なんているんだ、とか。どうやって生活するんだろう、女が働くのかな、とか。そもそも、性行為とか、できんのかよ、とか、女の方も大変だな、とか。


 あとから考えれば、落ち込みそうなことを、おれは平気で考えた。


「あの、僕はしばらく、ここで休憩して駅を出ますので。あの、どうか構わず……」

 童顔にそう言われ、おれはどっかと彼の隣のベンチに座った。


「どうせ今日、早く帰っても嫁さんいないんだ。それよかさ」

 ちょっと、聞かせてくれよ、とおれは言おうとした。


 頭をよぎったのは、琴葉ことはのことだ。

 母が言っていたではないか。

 相手は、障がい者なのだ、と。


 あんた、どうやって結婚するつもりなんだ。

 率直に、尋ねてみたかった。

 あんたはいいかもしれないけど、相手は幸せになれるのか、と。


「嫁さんって、ことは、ご結婚なさってるんですか」


 ところが、出端をくじかれた。

 身を乗り出すようにして童顔がおれに尋ねて来たからだ。


「……してる、けど」

 おれは身を反らす。


 逆にずいと童顔はさらに上半身を近づけた。ふわり、と柑橘系の良い香りがヤツからした。ミカンを食ったとかそんなんじゃないらしい。


 コロンか香水か……。そう思ったときだ。


 童顔が視線を下げた。何かを見ている気配があったので、やつの視線を追うと、どうやらおれの左手薬指を見ている。


「あの。指輪なんですけど」

 童顔は真面目な顔でおれに言うから、「……おう」と返事をしてしまった。


「お嫁さん、『指輪、いらない』とか、言いました?」

「……は?」

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