ホーム(11)
おれは、どこかさびれた感じのあるホームをぐるりと見てから童顔に尋ねる。
童顔は困ったように、駅名を告げた。しまった。勢いで降りたが、快速も停まらない駅じゃないか。
「この時間はまだ本数結構ありますから、しばらく待てば次の電車が来ますよ」
童顔は口早にそう言い、おれが視線を向けると、何も言っていないのに「すいません」と謝った。
「謝ることはねぇよ。おれが勝手にあんたと一緒に降りたんだ」
「……テレビとかでよく、義足嵌めた方が特集組まれたりするから、あれなんですけど。僕、まだうまく義足が使えなくって……。いつまでたっても下手で……。ほんと、すごいですよね。テレビに出てる人たち……。その、ご迷惑かけて……」
消え入りそうな声で、奴はおれにもう一度、「すみません」と謝る。
「誰もが、練習すればボルト並に走れるわけじゃねぇんだよ。いいんだよ、あんたはあんたで」
そう言ってから、ふと思い出す。
「それより、足、どうだ?」
尋ねると、童顔は「ああ」と呟いてから、右足のスラックスの裾を引き上げた。靴下が見え、童顔は腰をかがめてそれをずらす。
「……少し、腫れてるかな」
気付けばおれはやつの側にしゃがみこみ、足首を覗き込んで呟いた。
「でも、この程度なら大丈夫です」
俯いたおれの頭の上から、柔らかな声が降って来た。顔を起こすと、鳶色の草食動物に似た瞳がおれを見ている。
「ありがとうございました」
目を見て、礼を言われたのは何年ぶりだろう。
そんなことをぼんやりと考えていたが、小さく咳払いをしておれは視線をそらす。
「迎えに来る人間とかいるのか?」
立ち上がり、童顔を見下ろした。
「迎えというか。この駅で待ち合わせをしてる人がいるので」
童顔はそこで、少し目元を赤らめる。
「彼女と一緒に、家に帰るから大丈夫です」
「彼女って、恋人?」
なんだか意外でおれが尋ねると、童顔は恥ずかしそうに首まで真っ赤になり、「結婚の約束をした人なんです」と情報を付け足した。
「……へぇ」
障がい者なのに、恋人とかいるんだ。
正直、おれはこの時、そう思った。
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