ホーム(10)
「……なんでしょうか?」
きょとんとした顔で尋ねられ、おれは口元を手で隠して首を横に振る。
「なんでもない」
おれが答えると同時に。
電車が減速し始めた。
車内に、駅名を告げるアナウンスが流れる。
「ここで降りるのか?」
童顔に尋ねると、大きく頷いてゆっくりと体勢を変えた。
右足から義足の方に体重をかけ、それから、ゆっくりと右足を出す。足が床に着き、方向を自動扉の方に変えた時、おれは彼がわずかに顔を顰めたことに気づいた。
「捩じったか?」
尋ねると、童顔は驚いたように目を見開いた。
「いえ、大丈夫です。少し、痛いな、って思っただけですから」
「それをねじった、っていうんだよ」
おれが呆れた時、電車は停車し、扉が開いた。
扉の向こうには数人、電車に乗り込むのを待っている男たちの姿が見えた。よたよたと動く童顔に気づかないらしい。降りる客はいないと判断したのか、乗り込もうと近づいてきたので、おれは咄嗟に声をかけた。
「すいません。降ります!」
そう言うと、乗り込もうとした男たちの動きが止まる。おれは童顔の右ひじをとり、がっしりと掴んだ。
「右足からいくぞ。二人三脚だ」
おれは少し目線の高い童顔を見上げて告げる。童顔は、おろおろとした表情のまま、それでも大きくうなずいた。
「いち、に、いち、に」
おれの声に合せ、童顔はよろよろと歩き始めた。
介助なんてしたことがない。はたしてこれがあっているのかどうか分からないまま、おれはとりあえず必死に電車を降り、駅のホームに点在するベンチまで彼を引きずって歩いた。
「すいません。助かりましたが、あの……」
ベンチに座り、童顔は困惑した顔でおれを見上げた。
「この駅で降りてよかったんですか?」
「………え?」
おれが話すと、口から呼気は白い息になって漏れた。気温が下がりつつあるが、それでも今は暑い。
おれはマフラーを外し、腕にかけてから周りを見渡す。首から冷気が入り込んだが、存外気持ちよかった。
「ここ、どこ」
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