ホーム(7)

「おいおいおいおいっ」

 一番の揺れの箇所で、童顔の背中がおれに迫り、彼が背負っていたリュックがおれの顔と胸を打った。

 結果的に童顔はおれにぶつかって、その反動で床に前のめりに転倒する。


「す、すいませんっ」

 唖然とした俺の目の前で、童顔はべたりと電車の床にうつ伏せに倒れ伏した。


「ちょ……。おい、あんた」

 おれは慌てて童顔に手を伸ばそうとしたが、まだ電車は車体をまっすぐに戻しきれていないらしい。おれ自身もたたらを踏みかけ、慌てて体勢を整える。


「なにあれ」、「コケてる」

 ふと耳に入ったのは、あのカップルの声だ。


 反射的に顔を向けると、身を乗り出してまで、童顔を見て笑っていて癇に障った。

 周囲に視線を走らせると、皆、見て見ぬふりだ。優しい無関心、というところか。


「おい」

 電車がゆっくりと回復したのを確認し、おれはそっと声をかける。

 童顔が動かなかったからだ。

 なにか怪我でもしたのだろうか。それとも、人前で転んだのが恥ずかしくて動けないのだろうか。 


 だったら、無視した方が良いのだろうか。

 そう思ったのだが。


 童顔は、「よいしょ」と掛け声をかけると、ぎこちない動きで四つん這いになり、そこから体勢を立て直して、体育座りに座りなおした。


「あの、すいません」

 童顔はおれの顔を見るや否や、眉尻を下げて声をかけてくる。きゅうん、と鳴きそうな仔犬のような顔をしていた。


「立てなくて。手をひっぱってもらえませんか」

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