ホーム(6)
電車の振動にあわせ、ぷるぷる震えているのだ。
いや、本人はその振動に耐えようと必死らしい。
右手でパイプにしがみつき、できるだけ右足に重心をかけようとしているが、そのせいで、左側が時折がくがく揺れている。
足でも悪いのか? だったら、両手でパイプをつかめばいいのに。
そう思い、下げたままの童顔の左手を見る。
だらりと体側に沿う左手は。
右手と違い、手袋を嵌めていた。
おや、と思う。
いや、この時期手袋をはめていても問題はないのだが。
おれは、パイプを掴む、彼の右手を見る。
だったら、どうして、右手も手袋をはめていないだろう、と。
おれは首をかしげた。
どうにもちぐはぐな男だ。
背も高く、大人びた雰囲気はあるのに、童顔で。
マナーは悪くないのに左足を伸ばして座り、見た目は体が悪くなさそうなのに、優先座席に座っている。
「この先、大きなカーブがあります。車両が揺れますので、ご注意ください」
アナウンスが車内に流れ、おれは足をつっぱるようにして自動扉にもたれる。
何故だかこの線路。
ここで大きく蛇行するのだ。
アナウンスするだけあって、車内の釣り革が一斉に傾くほどに揺れる。
「……あの」
ふと聞きなれない声に視線を移動すると、あの童顔が青い顔でおれを見ていた。
「……え?」
話しかけられるとは思わず、そう尋ね返すと、童顔は切羽詰まった顔でおれに言った。
「頑張りますが、迷惑をかけたらすいません」
「は?」
眉根を寄せた瞬間、電車が大きく揺れた。
天井からぶら下がる釣り革が、制御された動きのように一斉に右に揺れ動く。
そして。
童顔が、右足を軸にして大きく回転した。
「……へ?」
思わず声が漏れるが、童顔の、「あわわわわ」という声がおれの語尾を消した。
童顔が右手でパイプを握ったまま、ぐるりと回転し、おれに背を向けながら倒れこんでくる。
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