最終話 ローテーブル(13)


 そう君の心音を聞きながら、くすりと笑う。「どうしたの」。総君が不思議そうに尋ねた。


「あのね」

 総君の顔をもう一度見上げる。


「総君の気持ちは気持ちとしてありがたいし、是非、私と一緒にうちのバカ親を説得してほしいところだけど、でもね……」

 私は口角を上げ、目を細める。


「もう、勝手に入籍して、こども出来ちゃったらこっちのものよ。きょうだいより先に初孫産んでやろうよ。そしたら、絶対認めるから、結婚。『孫の笑顔』の破壊力と融和力はすごいらしいよ」

 そう言うと、「ええっ!?」と驚いたような声を総君が上げ、上半身を起こそうとしたけれど、数秒沈黙した後、可笑しそうに笑いだしてまたラグに寝そべる。


「でも、それは最終手段」

 総君はくつくつと笑って私に言う。


「ご両親のこと、心配しないで。僕が絶対に説得する」

 頑なに総君は言い、私は「うん」とまた頷いた。


 頷きながら、さっきの母の泣き顔を思い出す。そして、ここに来ることさえ拒んで自分の意志を示した父の顔も。


 ここまで育ててくれた恩はあるし、自分が福祉の仕事をしているから、家族関係が生活の最深部に関与していることは知っている。家族がまずは小さな核であり、そこが揺らぐといろんなところにゆがみが出てくることも。その歪みを修正するのに、また多大なエネルギーが必要であることも。


 だけど。

 そんな知識や経験を押しのけ、振り払い、投げ捨ててでも。


 総君が語った『私が主人公の、私が幸せになる物語』を見てみたい。


 総君が一生かけてでもそうするつもりだ、といった『幸せな主人公』というものに、私はなってみたい。


 そのために。

 私が、総君を『幸せな主人公』にしてあげたい。


『恋愛ごっこ』が終わって始まる、そんな物語の。

 私たちは、幸せな主人公二人になるのだ。



                                (完)

 

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