第158話 ローテーブル(8)
「あなた、うちの娘と結婚したいようですけど」
母は
身長差なんて約三〇センチはあるだろうに、母は怯まない。堂々と総君を見上げる。睨み上げる。威圧さえする。
「うちの娘を一生働かせて生活するつもりですか」
「いい加減にして!」
私は総君の左腕を握り締めて怒鳴った。
「誰と結婚しようと私は定年まで働くわよ! 今の仕事が好きで入ったんだから!」
「あんな危険な仕事、さっさと辞めなさい! あんた何も言わないけど、新聞沙汰になった事件、あれ、あんたでしょ!?」
母は怒気に満ちた顔を今度は私に転じる。
「それに、あんたに何かあったらどうするの!? 二人で生活できないじゃない!」
私は、「はぁ!?」と低く呻る。
どんだけ総君の給料が低いと思ってるんだ。いや、そりゃ兄や弟に比べたら少ないだろうし、そもそもまだ働き始めて一年も経たないので低くて当然だ。
「僕と同年齢の男性よりは少ないでしょうが、独身時代の蓄えもありますし」
総君が言葉を滑り込ませるが、母は聞く耳を持たない。
「結婚式だってそうよ! どうするの! 誰も招待できないじゃない!」
さっきまで仕事の話をしていたはずなのに、今度は結婚式のことを口にする。私は眉根を寄せて母を見つめた。
「どういう意味よ」
「こんな……。写真だって顔しか見せられないなんて……」
母が総君を指差して顔を歪ませた。
率直に。
その顔を見て、醜いな、と思った。
小さな頃は友達のお母さん達を見ても、「うちのお母さんが一番綺麗だ」と思ったものだけれど。
総君を指差し、詰り、罵詈雑言を浴びせるこの母を見て。
嫌悪感しか抱けない。
今までお腹の中で燻っていた感情は、一気に固形化して急速に冷えた。『身内』というより、私の中で明確に『他人』というラベルが母に貼られる。
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