一緒に住もう

第148話 スツール(11)

             ◇◇◇◇


「疲れたぁぁぁ」

 私はダイニングのラグの上にうつぶせに寝転がり、思わず呟く。呟くというより、口から呼吸音と一緒に本音が出た感じだ。


「ごめん」

 すぐ側から声がして首だけ起こすと、そう君がスツールに座ってバスタオルで髪を拭いている。


「介助、しんどかったよね」

 気遣わしげにそう言う。そんな彼を私はじっとりと見上げた。


『シャワー使う?』

 総君に尋ねたのは、一時間ほど前だ。


 眠っている総君を残して、静かに浴室に行ったのだけど、出た頃には総君が起き出していた。『ごめんね。起こした?』と尋ねると、『いつもこの時間には起きてるから』とほほ笑まれる。


 シャワーを使うかどうか尋ねた時、『……ここ、手すりとかないよね』とおずおずと総君が私に言う。


 当然だけど、お風呂やシャワーは義足を外して入るから、片足立ちになる。移動は「けんけん」だ。平坦な場所であれば問題ないけど、浴室は床面が濡れて滑るから怖いという。そりゃそうだ、と私は納得した。


『介助するよ』

 そう申し出ると、高速で首を横に振られた。恥ずかしがっているのかと思ったらそうではなく、単純に『自分のことを手伝ってもらうのは申し訳ない』と思っているらしい。


『問題ないよ。一緒に行こう』

 そう言って、浴室に入る時と、出るときに手伝いに入ることにした。


 まぁ、身長差はあるけれど、基本総君は細身だし、大丈夫だろうとは思っていた。

シャワーは壁に固定してお湯を出しっぱなしにしておき、浴室を出ることにする。

 お湯の「出・止」の切り替えがシャワーヘッドではなくカランの根元についているから、総君には『自分で止められたら止めて。出来なかったら私がするから』と伝えた。不安定に片足片手で立つ彼が無理に操作しようとして転倒でもしたら大変だ。


 浴室に入る時はコツがわからず少し手間取ったけれど、もう次からは大丈夫だろう、と思うレベルの手伝いだ。正直、介助ともいえない。


「デイサービス勤務の時は、中介助三人で三〇人近い利用者さんをお風呂にいれても疲れませんでした」

 私はうつ伏せのまま、頬杖をついて総君を睨みあげる。


「総君が、浴室で私に変な事をするから疲れたんです」


「へ、変な事って……」

 途端に総君が顔を真っ赤にする。頭からかぶったバスタオルの端で口元を覆い、「だって、コトちゃんがTシャツ一枚で入って来るから」と言い訳をした。


「ズボン穿いて手伝いに入ったら、シャワーで裾が濡れるじゃない」


 私は呆れて答える。『浴室に入る』時は、床も本人も濡れてないから服のまま入っても良いけど、『浴室から出る』時は、床は濡れているし、それに泡の洗い残しなんかがあれば、落としてあげようと思っていたので、穿いていたデニムのパンツは脱いだのだ。


「デイの時みたいに半パンがあればそりゃ、穿くけど……。ないんだから仕方ないでしょ、Tシャツ一枚でも」

 私の言葉に、総君が非難がましくまだ言い返してくる。


「だけど、せめてなんかTシャツの下にズボンか何か穿いてもらわないと……」

「ちゃんとパンツ穿いてた」


「それ以外だよっ」

 総君はさっきよりもさらに顔を赤くし、顔を伏せる。「その……。太ももが、大変魅惑的で……」。そう呟くものだから、私は床に突っ伏して笑う。


 なるほど。大変魅惑的であったために、私はまた、服を脱がされ、昨夜の続きをされたらしい。

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