第133話 病室(9)

「ハローワークでも、病院のソーシャルワーカーにでも相談しなさいよ! 障害者雇用枠があるわよ! もっと重度の人が必死になって仕事を探してんのに、あんた、何ふざけたこと言ってんの!」


 私はそう君を睨みつける。視線の先で、総君が茫然と私を見上げていた。

 ふと、気づく。

 私が初めて総君に怒鳴られたように。

 そういえば、総君も初めて私に怒鳴りつけられたのかもしれない。


「こ、コトちゃん……」

 そっと、声を総君が掛ける。忙しなく動く鳶色の瞳は、明らかに戸惑っていた。私はその視線から目を離さない。


「やりもしないうちから、あれもできない、これもできない、って言うのやめて!」

 その目を見つめて言い放つ。


「せっかく、生きてたのに、「生きたくない」とか言うのって、ものすごく失礼よ! 死んだ人に謝んなさい! 生きたくても生きられなかった人に謝って! 総君、生きてるのに! 何甘えて不幸な主人公みたいに生活してんのよっ!」


 そこまで一気に怒鳴ると、軽い貧血を覚えて私は口を閉じた。

 ここのところ、まともにご飯を食べてなかったせいかもしれない。おもわず額に手を当てる。血が下がっているせいか、自分の掌が冷たい。肩口からのしかかるような重さを感じ、私はよろよろとパイプ椅子に座りなおす。


「こ、コトちゃん……。大丈夫?」

 困惑したような総君の声が聞こえたけれど、まだ顔が起こせないほど重い。膝に肘をつき、頭を支えた。


「お金が無い? 馬鹿にしないでよ」

 必死に口を動かす。なんだか麻酔をかけられたような感覚があるけれど、私は俯いたまま言い続けた。


「総君ひとりぐらい、私が一生食わせてやるわよ。だから、なんで……」


 一息にそこまで言い、私はしばらく口を閉じた。意識して呼吸をし、体中に酸素が巡るようにじっと動きを止める。でも、食いしばった口から言葉が零れでた。


「なんで、会いに来ないのよ……」


「コトちゃん……」

 総君がベッドの上でみじろぎする気配があったから、「大丈夫」と答えてゆっくりと上半身を起こした。


「コトちゃん……」

 総君の言葉に目を瞬かせる。


 起こした直後は視界全体の明度が落ちていたけれど、徐々に戻ってきた。震えるような寒さもおさまり、目の前の総君を見る。


「コトちゃん……」

 総君は涙にぬれた顔で、不安そうに私を見ていた。


 義足と、右足で立って、私の前にいた。

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