第132話 病室(8)

「こんな姿になっても、全然コトちゃんのこと諦めきれない僕のことなんて、気持ち悪い、って嫌いになってよ」


 そう君は馬鹿にしたように言った。

 顔をシーツに押し付け、嗤っている。


「こんな考え、まるでストーカーだよ。気持ち悪ぃ」


 多分総君は自分自身に言ったのだろうけど、何故だか勘に触った。

 自分のことを馬鹿にされたような気がした。


 総君が、総君自身を嘲笑うその態度に、私は無性に腹が立った。

 不機嫌な子どものような態度を取り続ける総君に、突如怒りが湧いた。


 私はぐい、と顎を上げる。


「気持ち悪い、って言うんだったらねぇ……っ」


 私の中で潰れてぺしゃんこになっていた気持ちが、怒りの感情で激しく膨らんでいくのがわかる。


「幽霊の格好でまとわりつかれてた方が、よっぽど気持ち悪いわよっ」

 立ち上がり、ベッドにうつ伏せに寝転んだままの総君に怒鳴りつけた。


「生きてるじゃない! 生きてるのに、何言ってんのよ!」


「生きてても、どうすんだよ!!」

 総君がもがくようにして起き上がる。

 いや、実際には、起き上がろうとした。


 右手をベッドに突いて体を支え、曲げた右足でさらに体を支えようとしたが、義足側の足がまだうまく使えないらしい。


 左側に傾いて、咄嗟に左手を動かすが、支えるべき手首が肘ごと無い。体がベッドの上で転倒しかけ、慌てて私は手を伸ばした。


 四つん這いになった彼の肩を支えて転倒を防いだが、言葉にならない声で喚かれた。


「ああ」とも、「があ」とも表現しづらい声で叫び、体を揺すって私の手を振り払う。


「動きづれぇんだよ、この体! もう、いらねぇよ!!」


 総君から聞いたこともない言葉で怒鳴られた。

 滅茶苦茶に、もがくようにベッドの上に座り直し、総君は肩で息をする。


「腕も、足もないのに……。仕事もないのに……」

 総君が鳶色の瞳で私を睨みつける。


「もう、嫌いになれよ!!」


「腕と足が一本ずつ無いから、ってなんなのよ!」


 お腹の底から怒りが吹き上げる。

 私を睨みつける総君を逆に睨み返した。


「あんたなんて、最初、体ごとなかったじゃない!」

 怒鳴りつけて、喉元を指さした。


「体全体で見たら、何パーセントなくなっただけなのよっ。ふざけたこと言ってんじゃないわよ! 大部分、戻って来たじゃない! 仕事が無い? なんも持ってないから会えない?」

 私は鼻で嗤う。


「だったら、仕事探して私に会いに来なさいよ! それぐらいの覚悟見せなさいよっ」

 大声で怒鳴りつけると、総君が驚いたように肩を震わせて私を見上げた。

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