第123話 階段(11)

 不思議だと思う。


 義理の妹、というのに、彼女は何処かそう君に似ていた。


 穏やかな話し方とか、ゆるやかな三日月を象る唇の形とか。

 ふわふわした猫っ毛はさすがに似てはいないけれど、清潔感のあるところや、人に警戒心を抱かせない雰囲気はとても良く似ていた。


 良く似ていて。

 思わず涙が零れた。


「ダメですか?」

 私がいきなり泣き出したりしたからだろう。あやめさんは動揺したように瞳を忙しなく震わせ、それから早口に尋ねる。


「会ってやれませんか? 連絡したかったんですが、あのバカが私たちに琴葉ことはさんのことを隠してたから、連絡が遅くなっちゃって……。そのことについては、本当に……」


「ち、違うんです」

 首を横に振った。次々零れでる涙を手で乱雑に拭って、「違うんです」ともう一度言った。


「きっと、彼の方が私に会いたくないんじゃないですか?」

 頭に浮かんだのは、昼間見た彼の姿だ。


 私に背を向け、『知らない』と言い切った彼の声。薄い背中。広い肩幅。


 冴村さえむらさんからもらった勇気は、跡形もなく消える。たくさんの励ましで膨らんだ自信は、音を立ててしぼんでいった。


総一郎そういちろうは会いたいんですよ」

 あやめさんは素っ頓狂な声を上げる。


「あのバカ、妙なところでカッコつけてるんですけどね、カッコつけきれてないんですよっ」


 あやめさんは今度こそ本当に地団太を踏んだ。スリッパを履いた足で、ぱたぱたと地面を踏んで鳴らせ、焦れったそうに口を尖らせた。


「お昼に琴葉さんにお会いしたでしょ? あの後、ずーっとトイレに籠るから、お腹でも壊したのかと思って心配してたのに、目、真っ赤にして瞼腫らしてトイレから出てきてね。泣いてたんですよ、ずっと。一時間近く。もう、馬鹿ここに極まれりですよ」

 あやめさんの物言いは容赦がない。


「『アレ、「コトちゃん」でしょ! 泣くぐらいなら、追いかけて行けっ』、って叱りつけたら、『違う、コトちゃんじゃない』の一点張りで。挙句の果てには、『あやめはもう帰れ』ですよ。だーれが……。だーれが、いったい、毎日ジャージだの下着だのを持ってきてやってると思うんだっ」


 あやめさんは脳内の総君に怒鳴り、「……ま。毎日洗ってるのはお義母さんだけど」と小さく真実を吐露した。


「あんまり腹立つからね、琴葉さん」

 一通り思いを吐き出してすっきりしたのか、あやめさんは目から険を消して私に笑いかけた。


「総一郎の言うことなんて聞かないことにしました。勝手に、会いにきちゃった」

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