第116話 階段(4)

「息子さん、いくつですか? 私とは大分年の差があるんじゃないんですか?」

 なんて返せばいいかわからず、真面目に返答してしまった。


「今年二二歳だから、七つぐらいだろう? 全く問題ない」


 いや、それは冴村さえむらさんが言い放つ事ではなく、息子さんが考える事では、と思いつつ、頭のどこかで、じゃあ、やっぱり冴村さん、十代で子どもを産んだってこと、と驚愕する。


「その元幽霊男、年下なんだろう?」

 冴村さんは溜息混じりにそう言い、足を組んだ。


「うちの息子でも問題ないじゃないか」

「それでも、七つも年下は、息子さんが嫌がるでしょう」


「うちの息子は、小さい頃からやけに年上が好きだった。初恋は保育園の先生だ」

「いや、それ……。年上が好きとかじゃないと思います」


「そう?」

 目を瞬かせて冴村さんは言い、それから咳払いをした。


「いや、この話は置いておこう」

 冴村さんは伸びすぎたきらいのある前髪を、長い指でかき上げた。眼鏡のブリッジを指ですりあげ、私を見る。


「その男、実際は生きていた、ということね?」

 尋ねられ、私はおずおずと頷いた。頷いた後、冴村さんを見る。


「あの……。話しておいてなんですけど……。こんな話を、信じてくださるんですか?」

 私が訝しげに尋ねる。冴村さんは苦笑して肩を竦めた。


「例えば予約もなしにいきなり来た客が、こんな話をし始めたら私は信じないよ。最後まで話しを聞いて、すっきりして帰ってもらうけど、即行健康福祉課に電話して情報提供するけどね。おまけに」

 冴村さんは小さく息を吐く。


「普通に考えたら、正田雅仁しょうだまさひとの件があるから、ストレス過多だったかな、とか精神が不安定で妄想が膨らんでるのかな、と思わなくもないけれど」

 足を組み替えた冴村さんは、首を少し傾ける。


「そうでもなさそうだ。それに、菅原すがわらさんが言うんだから、そうなんだろう。私は信じる」

 冴村さんの言葉に、なんだかまた涙がこぼれそうになった。私のそんな表情に気付いたのかもしれない。おどけたように笑って見せた。


「それにね、こんなオカルトみたいな話。実は大好きなんだ。だから本当のところは、『信じたい』んだ」   

 私は冴村さんの笑顔につりこまれるように、ぎこちなく笑った。


「それで、菅原さんはどうしたいの」

 単刀直入に尋ねられ、私は唇を噛み締める。

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