第104話 ベッド(4)

『どうしたの……』

 思わず足を止めて尋ねてしまう。


『なんでもない』

 そう君は取り繕うように言った。


『やっぱりコトちゃん、誰にでも話しかけられるね』

 そう言って笑ったのだけど。


 思えば。

 あの時から、なんだか総君の様子が変だった。


「……どうしたの?」

 私はシーツを握りしめ、お布団から顔だけ出して総君に尋ねる。


 あの、女の子がなにか関係あるの、と尋ねたかった。知り合いなのか。そう彼に聞きたかったけれど。


 あの女の子が、総君より年下だった事に気付いて言葉が潰えた。

 そういえば、総君は年下の方が好みなのだ、ということを今更ながら思い出す。


「あのね、コトちゃん」

 総君は黙り込む私に顔を近づけた。ふわり、と空気が冷えた。


「コトちゃんは、自分が思っている以上に可愛いし、素敵な女性だから、きっと大丈夫」

 総君の言葉に、「なにが」と声を出したけれど、かすれて自分でも何を言っているのかよくわからない。勢いのない声は、薄闇の寝室に溶けて、まぎれた。


 ねぇ、総君。何を言おうとしているの、と。

 総君、どうしたの。

 問いたい私の声は、発せられる事がない。


 ただ。

 この薄闇の中にさえ違和感を覚えるぐらい、うまくコラージュできない彼の姿を見ていた。薄く、向こうが見るぐらい透け始めた彼の姿に、必死に目を凝らす。


「もし、気になる男の人がいたら、冴村さえむらさんに相談するといいよ。きっと彼女ならコトちゃんに相応しい男かどうか判断してくれるから」

 総君は目を細める。


「なんの話……」

 そう口を動かしたはずなのに、音として発することはなかった。


 室内の闇が、私の上に降りてくる。質量と重量を備えて、私を飲み込もうとする。

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