第102話 ベッド(2)

 世間は。

 私が被害者、ということで。

 同情的ではあったけれど、好奇心の目にさらされることは避けがたく、表向きは自宅アパートの修理、という名目で三日ばかり仕事場に来るな、と冴村さえむらさんから言い渡されてしまった。


 その間。

 私の部屋の隣の住人と、すぐ真下の住人が引っ越しをおばさんに申し出、おばさんは真っ青になって霊媒師を勝手に私の部屋に呼んだ。


『この部屋、何かいる』

 霊媒師はそう君の気配を察して追いかけまわし、彼は必死になってとりあえず家の外に退避する騒ぎもあった。


 総君を追い出したことで霊媒師もおばさんも納得し、『店子は減るけど、あんたが無事で良かった』と言って帰って行った。


 その頃は、まだ総君はいつも通りだった気がする。

『見え方』も、だ。


 光を反射しない、独特の光彩を彼の肌は持っていたものの、なんだか時折。

 ……けて、見えるようになったのだ……。


 変だな、とは思いつつも。

 その後、私が仕事復帰して、なんとなくうやむやになり……。


 いや、『見え方』だけじゃない。

 総君の態度もなんだか変だったんだ。


 朝、私が起き出してリビングに行くと、スツールに座ったままぼんやりと視線を膝に落として項垂れたりしていた。


『……眠らないの?』

 初めてそんな彼を見た時、驚いて尋ねた。少なくとも、彼がこの部屋に来た二日目には、私が物置として使用していた部屋のお布団で、彼は寝起きしていた。幽霊とはいえ、「眠る」はずなのだ。総君は困ったように少し笑い、『眠ると怖い』と答えた。


『眠ると、あっちに行っちゃいそうだ』


 あっち、ってどこ。

 そう尋ねたかったのだけれど。


 彼の表情は私にそう尋ねさせなかった。

 そんなことを思い出しながら、私は考える。


 一体、いつごろから総君の様子がおかしくなったのだろうか。


「コトちゃん、あのね」

 総君が私に話しかける。「うん」と返事をしながら、どうして『今』なんだろう、と思った。枕にもう一度頭を埋め、総君を見る。


 私に話があるのなら、何故帰宅してから切り出さなかったんだろう、と訝った。

 いや。

 訝っていたのは、この数日、ずっとだ。


 総君の様子が変だ。

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