違うんだ、コトちゃん

第87話 寝室(1)

 明日は土曜日で、いつもならそう君とどこかに出かけるのだけど、とてもじゃないけどそんな気分になれない。


『二日酔いだから』


 あすの朝、そういって断ろうと思った。

 そのためだけに、お酒を買ってみた。


 ビールやウィスキーの方がいいのかな、と思ったのだけど、飲みこめる気がしない。甘い缶チューハイならいけるかもと選んでいるところを、総君に見られて最悪だ。


 最悪な気分のまま、バスルームを出て、タオルを取った。下着や部屋着を入れているラックから着替えを取り出し、身に着ける。髪はまだ湿気たまま、洗面所を出た。


 玄関に放り出した鞄を見る。その脇にはさっき買った缶チューハイの入ったレジ袋が見えた。


 のろのろと近づき、しゃがみこんで缶を取り上げる。

 プルタブに指をかけ、引いた。空気の漏れる音がし、鼻先を微かに甘みのある香りがかすめる。そっと唇に近づけ、一気に五口ほど喉に流し込んだ。


 もっと飲もうと思ったのに、炭酸が喉と胃の奥で膨れて、なかなか一気には入って行かない。顔をしかめて缶チューハイから口を離し、ふう、と呼吸をする。


 喉の奥が、じわりと熱を持ったように熱かった。

 見るとはなしに缶の側面にある成分表を眺め、それから勢いをつけて、もう一度胃に流し込めるだけ流しこんだ。


 喉だけではなく、胃までが熱くなる。

 さっきよりももう少し大きな息を吐いて、立ち上がった。


 ふわり、と上半身が揺れる。一瞬前後左右がわからなって、慌てて缶を持っていない方の手で壁をついた。


 結構、酔うものだ。

 私はくすり、と笑った。

 普段飲まないから、アルコール耐性が低いのかも。そう思って一人で噴き出した。耐性・・がないから、体勢・・を崩した。


 笑いながら、最悪、と心の中で毒づく。


 リビングに向かって缶チューハイを持って歩く。扉を開けて中に入るまでに、また数口、顔を顰めて飲んだ。妙な吐き気が胃の底の方にあって、なんだかもう、何もかもが嫌になる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る