最近、遅いから迎えに来たんだ

第84話 コンビニ(1)

          ◇◇◇◇


「チューハイって、いつの間にこんなに種類が増えたんだろうねぇ」

 酒臭い息と塩柄声に、首を隣に向けると、見知らぬおじさんに話しかけられた。


「ですよねぇ」

 コンビニの巨大冷蔵庫の前で、私はチューハイの缶を両手に持ち、苦笑する。


 何かお酒を買って帰ろうと思って、いつものあの駅前のコンビニに立ち寄ってみたのだけれど。


 アルコール度数も違えば、味も多様で。

 缶のパッケージを眺めて見たり、製造メーカーを比べて見たりしていたら、声をかけられてしまった。


「九パーセントの、この葡萄のが上手いよ」

 おじさんは赤ら顔で私に一つ勧め、それから自分では別のチューハイを数個とってレジに向かった。苦笑してその背を眺める。


 どうしてか分からないけれど、小さい頃からよく知らない人に声をかけられる。


 道を聞かれたり、世間話をむけられたり。

 最近では、スーパーで「ちょっと」と呼び止められ、見慣れない海外野菜を指さして、「これ、どうやって調理するんだと思う」とまで尋ねられたこともあった。


 なんだろうなぁ、と思って右手に持った二パーセントのアルコール度数表示の缶チューハイを棚に戻し、おじさんが勧めた九パーセントの商品に手を伸ばした。


「飲み慣れてないんなら、九パーセントなんてやめておきなよ」

 完全に無防備な状態で声を掛けられ、今度は悲鳴を上げそうになって振り返る。


 振り返って。

 気まずく視線を下した。


「さっきの二パーセントのにしたら?」


 背後にいたのはそう君だった。

 冷蔵庫の冷気で、彼が近くにいることが全くわからなかったらしい。


 うつむく私の頭の上から、彼の柔らかい声が聞こえてきて、私は人目を気にしているふりをして、返事をしなかった。


 もう一度冷蔵庫にむきなおり、手早くおじさんが勧めた缶チューハイを手にしてレジに向かう。総君の視線は感じたものの、彼は何も言わなかった。


「いらっしゃいませ」

 レジの店員は、もう顔見知りになった大学生らしい男の子だ。


「珍しいね、今日は無糖紅茶じゃないんだ」

 そう言われ、「まぁ」と答える。どうも人懐っこい子らしく、仕事帰りにコンビニに長居するようになったら、この子からも声をかけられはじめた。


「普段、飲まないんでしょ?」

 男の子が言うので、財布を出しながら、「うん」と答えると、肩を竦められる。


「もっと度数の低いのにしときなよ」

 ここでもそんなことを言われ、むっとして「大丈夫よ」と返事をする。

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