第82話 テレビ前(6)

「僕も大学生してた」

 そう君は私に肩を寄せ、座りなおす。ふわりと冷気が頬を撫で、私はまた少し、目を細めた。


「親は離婚してたけど、学費は二人で折半して出してくれて……。だけど、暮らしに余裕があるわけじゃなかったから、バイトしてお金稼いでたよ」

 総君はにこりと微笑んで見せた。


「社会人になってからは水を売ってたけど、当時はスーパーで惣菜作って売ってた」

 そうなんだ、と笑うと、総君は少し嬉しげに頷いた。


「総君、兄弟は?」

 私が尋ねると、首を横に振る。「ひとりっこ」。そう答えるから、なんとなく納得してしまった。


「コトちゃんは……。そうだな」

 私はね、と話そうとしたら、総君が私の顔を凝視して言い始める。「さぁ、どう思う?」。おどけて笑う。


「三人きょうだいの中間子。上と下は男兄弟」

 総君の言葉に、ぽかんと思わず口が半開きになる。その表情を見て、総君も驚いたように目を見開いた。


「当たった?」

 総君が尋ねるから、おずおずと頷く。


「え? 私そんな『中間子です』、って感じ? 『男兄弟の中で育ちました』、的な」

 戸惑ってそう言うと、総君は「うぅん」と首を横に傾げる。


「長子って感じじゃないし、かといって、末っ子感はないし……。姉妹がいると、冴村さえむらさんに対してあんな態度はとらない気がするし……」

 総君は『何故中間子で、上と下は男兄弟』だと思ったか、について律儀に答えてくれる。


「すごいね、総君。人を見る眼あるよ」

 素直にそう口にすると、「営業マンだったから」と笑われた。


「人を見る眼というか、良い人と出会う運は持ってたと思う」

 総君は私を見つめて、微笑んだ。


「両親とか、顧客とか……。会社の先輩や後輩も良い人たちばっかりだったし。それに、その……。あの……。え、と」

 総君は口ごもり、一度は視線を外したものの、再び私の目を見て言った。


「こうやって、コトちゃんにも巡り合えたし」

 目の端を薄く赤らめて総君は言った。


 なんだか、ぱくりと心臓が拍動し、私まで顔が赤くなりそうだ。


「コトちゃん」

 体ごと私に向き直られ、「はい」と思わず返答して背筋を伸ばす。


「あの……。昨日の晩の、その……。あの……」

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