第78話 テレビ前(2)

 ガラス窓が割られたのが二一時だった。


 そこから交番に電話をいれて事情を説明。すでに、玄関扉の件で幾度か通報をしていたお陰か、『実害あり』と分かった途端、すぐに来てくれた。


 ドラマで見るような現場検証を行った後、パトカーに乗せられて交番に移動し、今度は被害届の提出だった。この段階ですでに深夜一時になっていて、欠伸がとまらなかったのを覚えている。


『犯人が誰か、心当たりはありませんか?』

 狭い交番の、五畳ほどのスペースで制服警官と向かい合い、そう尋ねられた時。


『あいつじゃないの?』

 私の向かいに座る警察官の背後に立っていたそう君が、顔をしかめて言う。もちろん、彼が見えて、声が聞こえているのは私だけだ。


『ほら、日常生活自立支援の……』

 総君に促され、思わず『雅仁まさひとさん』と呟いた。


『誰ですか、それは』

 警察官がクリップボードにボールペンを走らせるから焦った。


『いえ、全然証拠なんてないし……。疑って迷惑かけてもあれなので……』

 首と手を横に振ると、警察官はにっこり微笑んで言う。


『ええ、当然貴女がその人の情報を我々に伝えたことは内緒にしておきますよ。ですから、何故、貴女がその人から被害を受けたのではないか、と思った根拠を教えてください』


 椅子に座った警察官の左隣では、肩に取り付けた無線で何事かやり取りをしているもう一人の警察官が視界に入る。

 目が合うと、反射のようににこりと笑い、促すように私の向かいに座る警察官を見た。


『……業務上で携わっている男性なんですが……』

 彼の名前を言ったことは内緒にしてくださいね、と念押しした上で、私は雅仁さんのことを告げた。そういえば、不思議なことはいくつかあったのだ。


 どうして彼は私が一人暮らしだと知っていたのか、とか。『最近男が出来ただろ』と言ったこととか……。彼に、というか。誰にも総君の姿が見えるはずはないのに、だ。


 と、いうことは。

 彼は至近距離で私と総君の家でのやり取りを聞いていたのではないか、と思ったりする。総君の声は聞こえなかったろうが、私が「誰かと話している」ということは分かったのだろう。


 ただ。

 どうして、彼に私の居住場所が知れたのだろう。

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