第75話 リビング(8)

 途端に。

 ものすごい寒さが体に吹き付けられた。


 体験したことのない、悪寒に似た冷感だ。咄嗟に両腕で自分の肩を抱いて床にうずくまった。


 その動きと同時に。

 唐突に私と窓ガラスの間に、そう君が現れた。


 私に覆いかぶさるように、背を丸めて総君が立つ。

 破片が。

 きらきらと散るガラス片は。

 私にではなく、総君の背中や肩、頭に降り注いだ。


「総君!」

 悲鳴が漏れる。

 そして、さっきの寒さの正体を知った。


 総君だ。

 総君が、私の体をすり抜けて前に出たのだ。


 ガラス片から私を守るために。


 窓の前に立ち、私の代わりにガラス片を浴びるために。


 ガラス片は総君の体にぶつかり、いくつかが床に散った。

 繊細な音を立てて砕け散る。


「総君! 総君!」

 床にうずくまったまま、這うようにしていざり、立ち尽くす総君に近づいた。


 総君は。

 人間には触れられないけど、モノを掴んだり触れたりすることはできる。


 だから。

 総君は私を庇って、ガラス片を浴びたのだ。

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