第74話 リビング(7)

「……なんだったんだろう」

 窓ガラスの自分に苦笑して見せた。


「窓じゃなかったのかな」

 そう言って振り返ろうとした時、視界が何かを捕え、動きを止める。


「コトちゃん?」

 訝るようなそう君の声に曖昧に頷き、窓ガラスに顔を近づけた。


 ガラスの真ん中に。

 傷がついている。


 削ったような、白濁した小さな円形の傷に、私は腰を屈め、首を傾げた。

 おかしいな、何かぶつけたっけ。

 そう思った時だ。


「コトちゃん、離れて!」

 総君が大声を上げた。「へ?」。驚いて体を起こし、ガラス窓から一歩後ずさる。


 窓を見る。

 幾何学的な破壊音が聞こえたのはその時だった。


 私は見た。

 窓ガラスに、一直線に飛び込んできたこぶし大の石を。


 それは私に向かって、吸い込まれるように、窓ガラスを砕いて部屋に侵入した。


 ガラスが石にぶつかる音と、ガラスが砕ける音は混在したのに、不思議と私の耳はその音を別のモノとして捉えていることに気づく。


 そして。

 粉砕したガラスの破片は、一斉に散った。


 大きな破片もあれば、爪より小さな欠片も見えた。

 それらは、たった数秒だけ滞空し、それから。


 私に向かって降り注ぐ。

 喉の奥から競り上がる悲鳴を堪えた。


 顔を伏せなければ、とか、頭を手で覆わなきゃ、とか。

 いろんな考えが頭に浮かぶのに、視覚と同様、スローモーションでしか体を動かせない。


 どうしようどうしようどうしようどうしよう。

 そればかりが頭に浮かんだ時だ。


「コトちゃんっ」

 総君が叫ぶ。

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