第67話 ボラセン(8)
「ありがとう、
しんとした室内で、最初に言葉を発したのは
目を瞑り、拝むようにして両手を合わせて下川さんに頭を下げた。
「ナイス、虚言っ。滅茶助かりましたよ」
「虚言、って。嘘も方便とか言ってよ」
下川さんは笑うと、「じゃあ、おれは帰るね」と私に向かって移送車の鍵を投げて寄越す。私は鍵をキャッチし、慌てて頭を下げて、「ありがとうございました」と礼を述べた。
下川さんは笑って手を横に振ると、私達に背を向けて非常階段の方に姿を消していく。
その姿を見送っていた私の背に、「さて」と暢気な局長の声が届いてきた。
「
恐る恐る振り返ると、カウンターに頬杖をついた局長が、苦みばしった顔で私にそう命じる。局長の背後には、仁王立ちした冴村さんがにらみつけていた。
「あんまり私、後輩を叱りたくないんだけど」
うなるような声に私は怯え、局長は椅子に座ったまま首を捻って、冴村さんを宥めるように手をひらひらと振る。
「冴村。落ち着け、落ち着け」
「報告連絡相談っ! 何一つ私は受けていないっ」
冴村さんの怒声に、私は首を縮めた。
背を丸めるようにして硬い言葉をやり過ごすと、「顔を上げろっ」と更に怒鳴られた。ばんっ、と重低音が響き、何事かと顔を起こすと、冴村さんが拳骨でスチールデスクを叩いた音だった。
「現状報告っ! あの男は何者だっ」
空気を揺るがす声を発し、冴村さんは出入り口をびしりと指差した。
「
思わず反射で答えた。
「何故彼が私の職場に来たっ」
間髪いれず怒鳴りつけられ、また脊髄反射並の速度で返す。
「母である正田えい子さんの金銭を自由に使おうとしているからですっ」
「経緯を述べよ!」
すかさず叱りつけられ、私はただただ、局長と冴村さんに、焦ったように話をするしかなかった。
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