第62話 ボラセン(3)

 時間は不規則だ。


 ただ、そう君とおやすみの挨拶をして寝室に入り、眠りに落ちて一時間ほど経った頃に。


 音が、鳴るのだ。

 がたがたがたがた、と。


 いつも驚いて飛び起きる。

 最初は総君も怯えて「なになに」と騒いでいたけれど、最近は音が響くたびに私の寝室に来て寄り添ってくれるようになった。私が寝ぼけて大騒ぎするからだ。


 夢うつつの状態で驚かされると、自分でも呆れるぐらい、あっさりと恐慌状態に陥った。正直、総君がいなければ、二、三日で精神的にダウンしていたかもしれない。


 私を落ち着かせて、総君が物音の確認に行ってくれるので。

 何の音なのかは、最近知れた。


 どうも、玄関のドアノブを掴んで揺すっているようなのだ。


 総君が玄関ドアをすり抜けて外の様子を確認しても、犯人は足早に立ち去るようで、姿は見えないらしい。総君は本当はアパートの外まで追って正体を掴みたいような素振りを見せるけど、私はそれよりも早く戻ってきて、側にいてと訴える。その方が安心するからだ。


 あの、郵便受けのガチャガチャは鳴らなくなったのだけど、今度は寝入りばなにドアを揺すられ続けた。


 それが、辛い。

 熟睡なんて、この一週間まともにしていない。


 総君に促されて警察にも相談に行ったのだけれど、こと細かく聞かれた割には、「巡回パトロールを強化しますから」と言われただけで拍子抜けした。「また何かあれば、この電話番号に連絡してください。アパートの最寄の交番ですから」。そう言って電話番号を渡されたので、あの音が夜中に響き渡った時、慌てて電話をした。


 ところが。

 すぐに、来てくれない。


「どういった状況ですか」とか「身の安全は確保されていますか」とか、「ドアスコープを覗いて、不審者がいるか確認してください」と言われたときは、温厚な総君が私の隣で「お前が来て確認しろよっ」と怒鳴って驚いた。


 結局。

 よく言われるけど、「事件」が起こらないと警察って、動けないんだなぁ、と妙に実感した。

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