第42話 正田宅(2)

「だって、三杯は飲んでたよ、あのひとたち」


 そう君の言葉に、私は肩をすくめる。ちなみに、コーヒー豆、砂糖、ミルク等は冴村さえむらさんの実費だ。私も半分出す、と申し出たのだが、『菅原すがわらさんより給料貰ってるから』と受け取ってくれない。


「だけど、たくさんの情報もくれるのよ」

 朝九時の住宅街に、人影も車影もなかった。幼稚園送迎も終了し、出勤時間も過ぎていれば、家自体に誰もいなくなるのかもしれない。

 道路はひっそりとしている。


「情報?」

 総君は首をかしげる。


「あの人たち、近所の小学校の特別支援学級が使っている農園の世話をしてくれてるの。ボランティアで」

 私が説明すると、「へぇ」と総君は声を漏らした。言外に、ただの無銭飲食者じゃないのか、という感情を滲ませる。


「特別支援学級の児童の様子とか、小学校の様子とか……。地域の雰囲気とかね。そんなのをボランティアセンターに持ち込んでくれてる。まぁ、それにたまに差し入れくれるし」

「それが、あの人たちの役割?」

 総君が尋ね、私は「うぅん」と唸る。


「それは、ボランティアセンターの役割かな。地域のいろんな人が集って、町の様子や情報を持ちこんでくれて、その中から、地域の困り感を探り当てていく感じ?」


 冴村さんはそれが上手いと思う。

 地域住民のボランティアさんが居心地良いと思う雰囲気をボランティアセンター内に作りだし、そしてそこから意見を吸い上げていく。


『ボランティアセンター』と銘打って構えていても、誰も来ないのでは意味が無い。そこに集い、情報を共有し、困り感を解決する人が集まらなければ、ただの『無料で飲み食いできて、部屋が使える場所』だ。


 冴村さんは、一年後、私をボラコにしたいようだけど。

 ひっそりと総君に気付かれないように内心で溜息をつく。

 冴村さんと変わった途端、閑散としたボランティアセンターになりそうで怖い。

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