じゃあ、六時半に、あのコンビニ前で
第41話 正田宅(1)
◇◇◇◇
「あの人たちは……」
通帳ある、封筒確認、領収書あり、と
「あの人たちは、お金を払わないんだろう?」
どうにも納得いかない、という顔の
「……なんのこと」
てっきり、正田さんのバカ息子のことかと思い、何故訪問前から正田さんのバカ息子のことを総君が知っているのか、と内心慄いて尋ねる。
「あの、おじいちゃんたちだよ」
おじいちゃん。
目を瞬かせ、「ああ」と苦笑した。きっと、始業開始のベルと同時に入館してきた農作業ボラさんたちのことだ。
「ボラさんからはお金とか取らないよ。あの人たち、普通にコーヒー飲んで、お代わりして、お茶飲んで、喋って、それで帰る」
笑いながらそう返答し、それから慌てて周囲を見回した。総君は私以外に見えていないようなので、誰かがこの私の様子を見ていたら、大変なことだ。「独り言を話し続ける変な
「だって……。ありえないよ」
総君は呆れてそう言った。首を横に振りながら、さっきの様子を思い返しているようだ。
まぁ。
あの、農作業ボラさんたちの『我が家感』は半端ないので、驚くのも仕方ないかもしれない。
挨拶こそすれ、普通にカウンターに座り、私か
『泥ぐらい、落として入って来てよ』と冴村さんが怒り、『あとで掃除しとけや』とバタバタと泥の付いた作業着を館内ではたきはじめる。それでまた冴村さんが叱り飛ばし、農業ボラさんたちが言い返すものだから、私は慌てて農作業ボラさん分のコーヒーを出して口をふさぐことにする。
『
と、農業ボラさんは毎朝言ってくれる。『あんたの旦那になる人は幸せだ』に続き、『審査してやるからわし等に会わせろ』に続くのはいつもの流れだ。
コーヒーが出ると、今度は誰とはなしに、お菓子だのパンだのを鞄から出して食べ始めるので、冴村さんが、『九時までに食べきって。今日は活動室利用あるんだから』と注意を促すものの、『館内食事禁止』を軽く破ってみせた。だいたい、カウンターにはさっき冴村さんがバックから取り出して並べたクッキーが籠に入って並んでいる。農作業ボラさんたちは、それもモリモリと咀嚼していた。
これが。
毎朝の風景なわけで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます