第37話 仕事場(7)

「ぎゃあ! コトちゃんっ! 何やってんだよっ」

 そう君が悲鳴を上げ、慌てて回れ右をした。律儀に私に背を向け、「ど、どこで、何を……っ」と首を縮ませて非難する。


「ちゃんとキャミソール着てるから平気」

 私は答えて、ポロシャツを頭から被る。


「そういう問題じゃなくって! 更衣室とかないの!?」

 硬直したように動かない総君が怒鳴る。


「ない。更衣室は基本、デイサービス勤務者のみだから。冴村さえむらさんもトイレとかその辺で着替えてる」

 私は答えて、「もう、こっち見てもいいよ」と声をかけた。


「ブラインドも閉めてるから、外からは見えないでしょうし」

 上段引き出しからノート型パソコンを取り出し、起動準備をしながらちらりと総君を一瞥する。


「ブラインド開けて」

 総君はそれでも何か物問いた気だったけれど、私が部屋の隅の給湯場に向かうのを見て、「うん」と返事をした。


 ポットに水を入れたり、昨日使用した布巾やハンドタオルを片付けて新しいものを用意していると、ブラインドが上がっていく音がした。首をねじり、窓を見る。


 開けられた一面ガラス扉から、一気に朝陽が溢れこんできた。


 薄く、まるで氷のような色合いの光だ。

 透明度が高く、多角的な宝石を通したように煌いた光。


 その光が。

 ボランティアセンターに波のように押し寄せてきた。


 その窓の景色を。

 総君が眩しそうに目を細めて眺めている。


 昨日と、同じだ。


 光は彼を通過するわけでもなく、はねつけるわけでもない。ゆるりと内包され、そしてその穏やかな光は彼の体を巡回する。


 潤んだような光を帯びた彼の頬はあくまで白く、そして緩く波打つ栗色の髪は艶やかだ。鳶色の瞳も相まって、どこか彼を日本人離れして見せるが。


 いや、この違和感は、彼の外見によるものではない、とすぐに気付く。


 なんだか、ちぐはぐなのだ。

 彼だけコラージュしたような。


 彼の姿だけを切り取って、この風景に貼り付けたような。

 そんな違和感を私に与える。

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