「総君」「コトちゃん」

第18話 アパート(1)

「あれが私の住んでるアパート」

 駅からの道はそんなに難しくない。


 二車線道路を横断してコンビニを西に曲がる。そこから住宅街に入って一本道を、てくてく歩けば、三階建てのアパートが見えてくるはずだ。

 今は夜に沈んでいるから外壁の色は見えないが、アパートはなんでこんな色にしたんだ、と首を傾げたくなるような黄緑色をしているので、昼間ならたぶん間違えない。


「……不思議な、色合いですね」

 黄緑だとは見えないようだが、日置ひおきがそう口にした。


「私の母方のおばさんがね、このアパートの家主なの」

 私が言うと、「し、失礼しました」と謝られた。笑って首を横に振る。


「私も変な色だと思ってるから」

 並んでアパートの階段に近づき、ふと気付く。

 アパートのタイルには、照明に当てられて私の影だけが伸びている。思わず隣を見上げ、彼の顔を見た。


「影も、ないんですよ」

 とっくにそんなことには気付いていたらしい。はにかんだように笑った。

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