第4話 駅前(4)

「どこに? 私と一緒に行きたい場所があるの?」


 耳まで真っ赤になって俯く彼がなんだか可愛くて、私は自然に笑み零れた。意識して動かしていた表情筋が勝手に緩み、俯き加減の彼を下から覗き込む。


「バス停とか探してるの? ここ、分かり難いものね」


 身内か、あるいはヘルパーとはぐれたのかもしれない。

 ここまでしっかりした『外見』をしているのだ。誰か世話をしている人がいるに違いない。見た感じ、バック類は持っていないようだが、携帯か連絡先を持たされている可能性もある。


「ねぇ、どこに行くつもりだったのかな」


 彼の顔を見た。まさかと思うが、病院から抜け出してきた、というわけではないだろうな、と探りを入れる。この近辺の精神科で入院設備がある病院と言えば、と頭の中で思い出していると、男性が「違うんです」と慌てたように私に言った。


「僕と、交際してください、って意味の『お付き合い』なんです」


 彼は若干背を丸めるようにして私を見つめる。


 私はきょとんとその彼の顔を見上げた。

 そして。

 完全に、頭の中で別の警報音が鳴った。


「……何かお困りだと思ったので声をかけただけだったんです」

 表情を消し、彼にそう告げた。


「待って」

 戸惑ったように言う彼に、背を向ける。ナンパか何かだったんだろうか。なるほど、そっちの目的か。

 それで皆、無関心を装っていたのだ。

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