最終話 正義を貫くために
「あぁっ!!」
「おい!何撃ってんだ!!」
唇を噛んで真っ青にした男の拳銃が煙を上げた。
銃弾が右眉上辺りを抉り、左手で顔を覆う関。
眼鏡男が怒鳴りつけるも鼻息荒く聞こえていないようだ。
関は左目で照準を合わせ男の手に発砲する。
「パァン!」
「うわああ”ぁぁ!!!」
「やめてくれ!」
拳銃を落とした男は手を抑え声を上げる。
関は右目の血を払い猛スピードで飛び蹴りを食らわせた!
それを見て眼鏡男は非戦的な態度を改めついに胸ポケットから拳銃を取り出す。
関は蹴り飛ばした小太りの男の両手を背中に回し手錠をかけた。
壁で頭を打ち気を失っている。
視線を眼鏡男に移した時、銃口が顔面を捉え始めていた。
撃たれる危険を感じた関はすぐに体を転がし
空いたスペースでしゃがんだまま拳銃を構え直す。
眼鏡男は体を動かすも気が動転していて
自分の持つ拳銃を見たまま肩を上げて震えている。
「銃を…下ろすんだ…!人を、殺したくないだろう?」
「フゥー!ハァー、フゥー!!」
過呼吸になった眼鏡男に言葉が届かない。
さらに出血で右目が開けられず、一瞬気を失いそうになる。
「ガッシャーン!!!」
「たけむらぁぁー!!!」
眼鏡男の左側、窓のすりガラスが割れた。
飛び散る破片と共に若い男が入ってきて叫びながら眼鏡男にラリアットを決める!
そして倒れた上に跨ってナイフを突き刺した!
背中で隠れてあまり見えないが何度も抜き刺しして血が飛び跳ねている。
夕陽で赤みがかった殺人鬼の髪が回り眼球が関を捉えた。
口角が上がったが瞳がくすんでいて笑っていない。
覚せい剤で理性が飛び、誰かまわず憎き竹邑教授だと思い込んでいるのだろう。
「ハハッ!」
少し伸びた髪は今風のヘアスタイルで若さを引き立てるが
明日も明後日も失った病人のような顔色はその艶と不釣り合いで痛々しい。
男は左足を抜いて関の方を向き、血まみれになったナイフを振り上げた。
先ほどから集中力が切れ切れになっている関は思わず半歩下がる。
「パァン!」
男がまさにナイフを投げようとしたその時!
脳天を銃弾が貫通!
その場に倒れた。
口を開けたまま銃弾の軌道を遡ると矢島のアナログから硝煙が上がっている。
「なん…で…?」
そのまま前のめりに倒れてしまった関。
ラックのそば、矢島の後ろから救急隊員が続々と入ってくる。
担架に乗せられた関はそのまま救急車で運ばれた。
2日後
「戦意を奪うだけで良かったはずです!」
「悪い、お前を守りたかったんだよ。謝って済む問題じゃないけどさ。」
目が覚めた関は病室のベッドで鷲宮の若者を撃ったことを責め立てていた。
2人が拳銃を使用するにあたって、
相手の命に関わる発砲はしないと決めていたからである。
感情が抑えられなくなった関は病室を飛び出し屋上へ向かった。
日はすっかり昇って陽気な春の風が吹く。
長ベンチに腰かけてため息をつき空を見上げた。
薄く綿菓子のようにぼやけた雲がゆっくり泳いでいる。
出血が酷くなかなか目を覚まさなかったが、眼鏡男の言葉が胸に残っており
無意識にその苛立ちを矢島にぶつけていたことに気付く。
「関!」
矢島の声が上がってくる。
声の方へゆっくりと顔を動かし立ち上がる関。
「矢島さん…さっきはすみませんでした。
今回の事件、色々とありがとうございました。」
矢島が近寄ると関は礼交じりに言葉を発した。
「…お前はよく頑張ったよ。サイバー課や本部の連中も褒めてた。
終わらしてくれたってな。」
「そうですか…。」
関が病院に運ばれた後、執行台の回路システムに侵入した2人組が逮捕された。
(うち1人は組員に刺殺)
これにより執行台事故は殺人事件として報道されることになるだろう。
そして本部を攻め込んでいた組員の波が引き、死亡または拘束の末落ち着いた。
甚大な被害があったが既に復旧作業に入っているという。
矢島は少し俯き顔になっていた関に労いの言葉をかけた。
「でもよ関、竹邑教授はなんであの時あそこにいたと思う?」
「え?」
固まる関を他所に矢島はベンチに座り足を組んで、背もたれに肘を乗せた。
「執行台の事故でパニック障害を患ってまともに動けないような人間が
同じ建物が並ぶ敷地内で第三資料棟近くにいた。
しかも組員どもの攻撃を避けながらだ。おかしいと思わないか?」
「確かに…どういう事なんですか?」
「これはオマケだがお前の知り合いの松野が教授を調べたら
その昔本部の提言した暴力団排除運動に署名捺印した記録が出てきた、
って言うんだよ。」
「え?ってことは…。」
「松野の言う通り教授が黒で、
鷲宮殺害から全て計算通りだったんじゃねぇか説、だよ。」
「…まさかあ〜!?」
2人の笑い声は空に舞い風に流されて消えた。
執行台の誤作動が起きてから約1日半で事件が片付き、
その驚異的なスピードに本部では称賛の声が上がる。
当の本人にその声は届いてないが、関も称賛のために働いてるわけではないし
1つの事件の幕引きを口に出して実感したかった人達の言葉に留まった。
鷲宮の組員は攻め入る人員を切らしただけで、誤解が解けたわけではない。
どこかに復讐の意志を持った残党が潜んでいるかもしれない。
決死の対策や捜索を逃れ、また殺意が蔓延していくかもしれない。
しかしそんなことはさて置き時間は経っていくし、新たな犯罪がまた起こるのだ。
――まるで悪そのものが生きて人を食い物にしてるんだよ!――
関の心の中で渦巻いた言葉は、
彼が警察官である限り逃れられない現実を表していた。
数々の事件を捜査し経験を積んできたが故に心の弱さも蓄積されているのだろう。
しかし正義を貫くために、これからも犯罪者を全力で取り締まっていく。
それがこの国の正解だから。
終わり
不慮の事件 西書 @nishiwrite
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