第10話 葛藤
第三資料棟はA B C D 4つの倉庫で成り立つ。
D庫のドアノブに手をかけゆっくり回すと…鍵が開いている!
無数に並ぶラックの棚にファイルやら機械やらが詰まっていて
関は身を潜めながら探しながら入っていく。
「どうする?銃声が聞こえたぞ。」
「…ほとぼりが冷めるまで大人しくしてるんだ。」
奥のすりガラス窓は閉まっていて話し声がよく聞こえる。
姿を確認すべくラックの後ろから静かに、細心の注意を払いながら進んでいく。
正方形の倉庫の左奥、作業スペースで立ち話をしている2人分の足が
棚の隙間から確認できた。
覗き込むと机の上にパソコンがあり、
おそらくこれが執行台を誤作動させたもので、2人は使用者だと思われる。
しかし彼らの装備はおろか顔も見えず危険度において情報量が少ない。
関は一旦ラックにもたれて目を瞑り長く息を吸った。
逃すわけにはいかないからだ。
「警察だ!!両手を上げろ!!」
「なんだって!?警察!?」
「お、お、お、俺達は何もしてないぞ!!」
意を決した関は左手に警察手帳を持って2人の前に立った。
右手で拳銃を構え声を上げる。
見た目年齢の高い彼らは一見犯罪と無縁そうな普通の面立ちをしていて
焦る姿も演技に見えない。
しかし関は続けた。
「そこのパソコンから執行台の回路システムに侵入し
誤作動させた跡が出た!」
「お、俺達じゃない!落ち着いてくれ!」
「…仕方ない、白状しよう。」
「お、おい!言うなって!」
2人は両手を上げて口々に反応した。
小太りの焦る男はリュックを背負っていて
いつでも逃げ出す準備をしていたのだろう。
痩せた眼鏡男は白状すると言って向かい合っていた体を関の方へ向ける。
「動くな!」
「…焦らくても私達は反撃したりしない。
それより教えてほしい。死刑執行台の事故を受けて
世の中から死刑制度は無くなったか?」
「…?」
拳銃を構えたまま、寄せた眉が一瞬動く。
眼鏡男は関の目を見つめながら続けた。
「悪行を犯せば裁判にかけられ、然るべき刑を受けるのが
この国の法律であり正解だ。
重大な殺人を犯せば死刑など当たり前。
更生など施設が赦しても社会が赦さない。
私達はそれら(死刑囚)を処刑して見せしめ
遺族達の不安を少しでも取り除くことと
同じことが繰り返されないように努めることを誇りにしてきた。」
眼鏡男と関を交互に見ていた小太りの男は次第に話を聞く顔になり
視覚的に静かになった。
「だが実際どうだ!?死刑罪は全く減らない!
殺された遺族は皆同じ顔をして罪人を憎むんだ。同じ目に遭わせてくれってね。
まるで悪そのものが生きて人を食い物にしてるんだよ!
そんな事にも気付かないで、私達は言われるままに何人も処刑してきた。
1つずつ悪をこの世から消していくことで
いつか人を殺さなくていい日が来るのを信じてたんだ!」
眼鏡男は涙を目に浮かべての声を張り上げる。
小太りの男は俯き下唇を噛んでいた。
「私達は弱い。世の中のために働いてるつもりでも
結局、心のどこかで見返りを求めていたんだ。
処刑ボタンを押すなんて並大抵のことではないし
まして処刑後の給料で食う飯が美味いわけがない。
なのに蔓延る悪はいつまでたっても滅ばず時代を生き延びる。
だったら、と死刑を無くすためのメッセージを発信した。
気持ちなんて汲んでもらわなくていい、
死刑制度そのものの重要性をもう一度改めて考え直してほしかった。
それには理論や理屈よりも物理的な恐怖の方が効果的だと思ったからだ。」
関の右目から涙が零れ落ちた。
ふと我に返り、目を丸くしながら左手で頬をこする。
その刹那――
「パァン!」
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