第9話 第三資料D庫


「ウゥゥー!!」



本来ならば移動のたびにサイレンを鳴らして走らない。

しかし今は本部がテロと抗争中で、一刻も早く鎮火しなければならない状況だ。

目の前の事件が迷宮入りしないよう関も矢島も急ぎ足になる。

太陽が沈み始め、空がオレンジ色になってきた。



「…?あれは?」



矢島は回転灯を光らせたまま図書館の敷地内を抜け、

資料棟のエントランス前でサイドブレーキを引いた。

車が制止する前にドアを開け飛び降りた関はエントランスホールへ走る。

係は居なく、内扉が解放されていた。


塀で囲まれた敷地内に車1台分ほどの道を挟んで大きな資料棟が4棟並ぶ。

その第一資料棟を横切る関の目線の先で歩いているスーツ姿の男は

荒々しく肩で風を切りながら右手の拳銃でどこかに照準を定めていた。


関は静かに背中から壁に張り付き、自分の拳銃の弾倉を確認する。

毎度弾倉を確認するのは一種の癖で深い意味はない。

男の死角を利用し壁伝いに後を追う。



「オラァ出て来いよ!!そこにいるのは分かってんだよ!!」



時刻は17時半を回っている。

資料棟はともかく図書館も閉館し人気のない敷地内に怒号が上がった。

関が目を付けた男である。

誰かを追っているはずだが第二、第三資料棟の間で見えない。

第二資料棟の壁に移動した関は端に寄ってゆっくりと顔を出す。



「竹邑ぁぁ!!!どこだぁ!!?」



男は片手で拳銃を構えたまま歩き続け声を張り上げる。

棟は長方形で短い壁に身を潜める関から奥は遠くよく見えない。

死角を使い近付くために移動しようとしたその時――



「パァン!」


「なんだぁ?」



棟の屋上から何者かに狙撃された。おそらく同じ類の人間だろう。

運よく当たらなかったが追っていた男にも存在がバレてしまった!

来た道を引き返してくる。

関は向かいの棟の室外機に体を隠し浅い深呼吸と長めの瞬きをした。

そして足音に耳を澄まし男の体が近付いてきたところで

一気に足、腹、首へ3段蹴りを食らわせる!

ガタイが良く丈夫な体の男は倒れないが反射的に拳銃を持った右手で顔を覆った。

関はその一瞬の隙を逃さず拳銃を払い飛ばす!

すぐさま自分の拳銃をケースにしまい両手を握り固め

睨み迫ってくる顎に肘撃ち、そのまま体を大きく捻り首元へ回し蹴りを食らわせる!

戦い慣れた関の連打が決まり男はついに倒れた。

戦闘不能を確認した後、飛ばした拳銃を拾い屋上へ構えるが誰もいない。

すぐに地上奥の方へ構える。少し先で草が揺れた。



「竹邑教授…!」



草木の間から白衣姿の竹邑が飛び出す。

倒した男以外に人影はないが、走る様はまるで周りが見えていない。

関は屋上をもう一度確認して後を追った。



「ダァン!」


「竹邑教授!!」



しかしあと4,5メートルという距離で銃声が鳴り倒れる竹邑。

軌道からするに屋上、すぐに銃口を向けるが姿はない。

一先ず状態を確認すべく竹邑の元へ向かう。



「パァン!パンパァン!!」



関が走り出すと銃弾が降ってくる。

倒れた竹邑を抱え草木へ飛び込んで身を隠した。

状態は…白衣が赤く染まっているが致命傷は外している。

しかし顔をはたくも意識を失っておりこのままだと危ない。



「ガサガサ…!」



飛び込んできた草木が揺れ、人が入ってくる予感がする。

関は急いで竹邑を背負い移動を始めた。



「関、大丈夫か?」



後ろから聞こえたのは矢島の声だった。



「矢島さん!竹邑教授が!」


「撃たれたのか?分かった救急車を呼ぶ!お前は先に行って確認してこい!」


「お願いします!」



車を停めた後、関と入れ違いで交戦した矢島。

鷲宮の組員であろう彼らはどこかで竹邑の存在を知り殺しにかかっていた。

応援要請を出したが叶うかどうかは分からない。

関の背中から竹邑を抱え仰向けに寝かせると

矢島は胸ポケットからスマホを取り出し救急車を呼び出す。

敵の数は未知数のまま、関はD庫へ走っていく。

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