第8話 暗号化の逆探知
デジタル犯罪を取り締まるサイバー課は
少し離れた交番に身を潜めて活動しているという。
落ち着きを取り戻した関は同期生に電話して居場所を聞き出した。
「
回転灯を点けて飛ばしてきた関たちは交番に入ると真っすぐに奥の部屋へ向かった。
4畳半の小さな休憩室、といったところで男がノートパソコンを覗き込んでいる。
その横でコーヒーを注ぐ松野と目が合った。
「ああ、執行台のスイッチをいじるためには
あるルートから潜入しなきゃいけないんだけど、
暗号化されててて解読に時間がかかってるんだ。
本部のスパコン使えればすぐなんだけどさ。」
「こういうのは暗号化が付き物なの?」
「いえ、暗号は基本的にシステム管理そのものにかけて外敵から守るものなので
これは意図的ですね。おそらく時間稼ぎだと思います。」
「当たりだ!…てか何で2人だけなの?」
「殺人事件だって、信じてもらえなくて。」
「そりゃ大変だね。まだまだアナログな連中が多いからな。」
男は膝に乗せたノートパソコンにかじりついたまま反応がない。
彼も関と同期生で警察学校時代からPCオタクだとからかわれていた。
世界では重要項目として認識されつつあるサイバー犯罪
しかし本国では被害レベルが低く対策組織も少人数班編成で若年層が多い。
若い班長である松野の言葉は上層部に届かず
たった2人で捜査に踏み切っていたのである。
「ちなみに誰がホシなの?」
「まだ分からない。だから事故か事件か正直曖昧なんだよ…。」
「そっか。あ、コーヒー、飲まれますか?」
「いいの?じゃあいただくよ。」
松野は戸棚からマグカップを2つ取り出してポットを傾けた。
若いのに気が利くところがあり、矢島は関と松野を交互に見る。
「竹邑教授じゃないの?」
「そう思ったんだけど、誤作動以来
精神がおかしくなっちゃってるらしいんだ。」
「それは演出でしょ?事前にOD《オーバードーズ》しておけば発狂ぐらい
自然にできるよ。」
「ハハッ強引だねぇ~。それだと代償がデカ過ぎるでしょ、
実生活に支障きたしちゃってんだから。
普通、人を殺した後にとる行動ってもっと直線的で分かりやすいんだよ。」
「死体をバラバラにして捨てたり、とにかく隠すよね。」
「なるほど、あ~そっかぁ。じゃあ今回は何?
隠す必要がなかったってこと?」
「そうだね。隠す必要が…、そうか!見せたかったんだ!」
「あー、事故そのものが演出か。」
「え、なになに?どういうこと??」
「拘留所のカメラ映像がテレビで流れたじゃん?
犯人は恐らく“誤作動が起きた執行台”を見せたかったんだよ。」
「え~何のために?」
「…それは分かんない。」
「ねぇ大丈夫?それでちゃんとホシに辿り着ける?」
「まぁデタラメだけど筋は通ってるな。」
サイバー関係以外素人の松野が待ち時間を埋めるべく出す素朴な質問で
2人の抱えていたわだかまりに一案が閃く。
正直すぎる関は心を許した相手に何も考えず話してしまうところがあり
警察官らしからぬ顔を見せるが、松野も矢島もその辺りはもう慣れていた。
そして…
「出た!…場所は南西区の第三資料D庫!」
「本当か、よくやった
「松野、ありがとう!こっちは直接行ってみるよ!」
「分かった!気を付けて!」
「コーヒーごちそうさん。」
しばらく水中に潜っていたかのように静かだった北上が急に声を上げ驚く3人。
暗号を解読した後、その暗号をどこで生成したのかを追っていた。
南西区立図書館の敷地内には様々な種類の研究材料として用いるための
個別にまとめられた資料が保管された棟が並ぶエリアがある。
存在は知られているが関係者以外立入禁止なので一般人は中を知らない。
そんな場所、第三資料D庫のパソコンから暗号が生成されたと分かったのである。
具体的な日時や使用者などはこれからさらに深く探索していくサイバー課松野班。
関たちは慌ただしく立ち上がり車で現地に向かうことにした。
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